暗く、重く、切ない。〜映画『カンフーパンダ2』

■カンフーパンダ2 (監督:ジェニファー・ユー・ネルソン 2011年アメリカ映画)


前作『カンフーパンダ』はパンダのみならず多数のカンフー使いの動物たちが登場する物語だったが、「パンダが主人公かよ」と思ってナメてかかって観たら大間違い、昨今のハリウッドCGアニメの例に漏れず非常に完成度の高い娯楽アニメだった。舞台となる古代中国のオリエンタリズム溢れる情景描写のみならず、デブで食いしん坊なだけのオタク・パンダが次第にカンフーマスターへと成長してゆく様、仲間たちとのユーモラスな掛け合い、そして実写のカンフー映画に勝るとも劣らないアクション・シーンの連続など、想像以上の出来に舌を巻いたのを覚えている。
その続編となるこの『2』は、カンフーマスターとなり「竜の戦士」と呼ばれるまでになったデブパンダ・ポーが、強大な力を持つ邪悪な敵に出会う物語となっている。そして前作が成長譚だったこの物語、今作ではポーの出生の秘密に関わる物語として進行してゆく。今回の敵役は中国の支配をたくらむ孔雀、シェン大老。この悪辣な孔雀は全てのものを打ち壊す大砲軍団を率い、逆らう国は火の海にすると脅しをかける。強大な力を持つ破壊兵器に小手先のカンフーなど成す術は無い。ポーはこのシェン大老を倒すべく虎・猿・蛇・カマキリ・鶴の仲間と共に立ち上がるが、戦いの最中、忘れていたはずの幼少時の悲劇的な記憶が蘇り、ポーを苦しめる。そう、幼いポーの生まれたパンダたちの国を滅ぼしたのは、実はシェン大老の軍団だったのだ。
パンダのポーのコミカルなルックス、とぼけた性格や言動、そしてそんなポーと仲間たちとの掛け合いは相変わらずユーモラスで楽しいものではあるのだけれども、この『2』の物語は、『1』とは比べ物にならないほどに非常にシリアスなものを孕んで展開する。世界を破滅へと導くシェン大老の恐るべき大砲軍団に、精鋭カンフーチームであるはずのポーと仲間たちは苦戦に次ぐ苦戦を強いられる。そして幼少時の残酷な記憶がトラウマとなってポーを苦しめる。『1』ではずっこけパンダのドタバタ・コメディ・アクションだったものが、この『2』では暗く、重く、切ない物語として語られてゆくのだ。そして『1』で映画全体の基調色となる明るく白っぽかった色彩は、『2』では夜の闇と炎の赤で塗り替えられ、パンダたちが戦う世界をより一層過酷なものとして彩るのだ。
自分はこの『2』を観てなぜか『スター・ウォーズ』を思い出してしまった。『スター・ウォーズ』の背景にある東洋的な思想は元より、勝ち目が無いほどに強大で情け容赦ない敵の軍団の攻勢、自らの出生の秘密、共に戦う仲間たちの存在、そして最後の戦いの勝敗を左右するスピリチュアルな"力"のあり方、こういったものに『スター・ウォーズ』との共通項を感じたのだ。なにしろ、この『2』の最後の戦いのスペクタクルが半端無い。全てのものを破壊する圧倒的な火力に対し決死の思いで挑むポーの切り札、このあたりの描写はもはや手技足技で戦うカンフー映画の範疇さえ超えてしまっている。にもかかわらず要所要所でずっこけたお笑いも忘れていない。敵役シェン大老の孔雀の羽を広げて行われる戦いも凄みがあっていい。ただ、主人公であるパンダのポー、パンダのくせにアップの顔は…ちと怖い。

■カンフーパンダ2 予告編