■ザ・タウン (監督:ベン・アフレック 2010年アメリカ映画)
舞台はアメリカの都市ボストン。その一角に存在するチャールズタウンは、銀行と現金輸送車強盗が世界で一番多い街だ。"ザ・タウン"と呼ばれるこの街で、銀行強盗は職業のように父から子へと受け継がれてゆくのだという。主人公の名はダグ(ベン・アフレック)、彼は幼馴染たちと結成した銀行強盗団のリーダーだ。彼らは綿密な計画の元に銀行強盗を繰り返し、犯行現場には証拠一つ残さない完璧なプロ犯罪集団だった。しかしある日、犯行途中に予定外の事態が起こり、銀行の女性支店長クレア(レベッカ・ホール)を人質に取ってしまう。人質は解放したものの、証言を恐れたダグは、口封じの為にクレアの私生活へ忍び寄る。だが、クレアの暖かな心に触れたダグは次第に彼女に惹かれてゆき、自分の正体を隠したまま、彼女との新しい人生を願ってしまう。
なにしろ冒頭の銀行襲撃シーンがいい。黒パーカーのフードを目深に被り、髑髏マスクにドレッドへアのウィグといった不気味な格好の強盗団が、マシンガンを構えて銀行に押し入る。時間錠の開錠時間に合わせて金庫を開けたり、監視カメラのHDをレンジで焼いたり、DNAの痕跡を消すため漂白剤をあたりに撒いたりと、犯行の手口がいちいちリアルで緊迫感に満ち、この冒頭からまず映画に引き込まれる。その後に映画で展開される他の強盗の手口も、どれも斬新で現実味に溢れ、こういった犯罪映画としての側面が実に新鮮なのだ。さらに映画後半では熾烈なカーチェイスや派手な銃撃戦も用意され、クラム・アクションとして十分楽しめるはずだ。
そしてもう一方、人間ドラマとしての側面も忘れてはならない。主人公ダグは銀行強盗犯とはいえ、凶悪犯罪者然とした男ではない。知性的で人間的な心根も兼ね備えた男なのだ。犯罪者を多く抱える街"ザ・タウン"、そこで生まれた彼は、かつて犯罪者だった父、犯罪者ばかりの幼馴染に囲まれ、彼自身も犯罪者として育ってしまうが、そんな自分に疑問を感じ始めていたはずだ。ただ、感じてはいるが、どうしようもできないのだ。コミュニティーという名のしがらみの中で生き、自分を変えることができないままズルズル生きてしまったのだ。そんな彼に変化を与えるのがクレアだ。彼女は別の町から"ザ・タウン"に越して来た女性だった。彼女は街のしがらみとは別の場所で生きる女性だった。だからこそ、ダグはクレアに憧れ、そして彼女との愛を選ぶ事で、この町との負の連鎖を断ち切ろうとしたのだ。だが、しかし、ダグの強盗グループとその黒幕は、そんなダグを決して許そうとしなかった。
それが犯罪の温床だったとはいえ、自らが生まれた頃から慣れ親しんだ世界と、自らを愛してくれる女性の住む、真っ当な人々の世界の間で引き裂かれ、その葛藤に身を苛まれる主人公、といった物語がいい。逃れたくても逃れられないアンビバレンツに苦しむ主人公をベン・アフレックが好演する。ヒロイン役のレベッカ・ホールの溌剌とした魅力と親しみ易さも素晴らしい。一方、ダグの幼馴染であり、強盗仲間のジェムとダグとの絡みがいい。粗野でキレやすいジェムだが、彼も単なる凶悪犯罪者として描かれてはいない。なぜなら彼もまた、"ザ・タウン"のしがらみの中に絡め取られた哀れな男だからだ。ジェムはつまり、ダグの陰画なのだ。このジェムを演じるのが『ハートロッカー』のジェレミー・レナー。そして彼らを追うFBI捜査官フローリー(ジョン・ハム)。正義の側にいながら手段を選ばない捜査を繰り返すフローリーの姿は、観るものに正義と悪の境界線が曖昧である事を思い知らせる。
そして映画に時折挿入される"ザ・タウン"の俯瞰映像。どこか蒼褪め、冷え冷えとして見えるその街並みの光景は、この映画のもう一つの主役といえる。このリアルさ、不気味な姿の強盗団、冷え冷えとした街並みの俯瞰映像を観ていて、何かに似ているな、と思ったのだが、思い浮かんだのがあの『ダークナイト』だった。『ザ・タウン」で描かれる暗く陰鬱な街と、終わらない犯罪の連鎖と、それを取り巻く者が心に抱える遣り切れなさ、そこには、クリストファー・ノーランが監督した『ダークナイト』と非常に共通項が存在する。ある意味『ザ・タウン』はもうひとつのゴッサム・シティだということができるのだ。ただし、『ザ・タウン』には、ジョーカーの如き究極の悪は登場しない。それと同時に、バットマンの如き正義とモラルを訴える者も存在しない。ここに存在するのは、這い上がることのできない吹き溜まりの街で、しがらみと虚無の中でもがく生身の人間だけだ。究極の悪も無く、究極の善もない。あるのはただ、彼らが生きる灰色の現実のみなのだ。
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