最近読んだコミックあれこれ

ブラック・ジャック創作秘話〜手塚治虫の仕事場から〜 / 原作:宮崎克、漫画:吉本浩二

漫画史にきらめく不朽の名作「ブラック・ジャック」!!“漫画の神様”手塚治虫先生の創作の現場を関係者の証言で再現するマンガ・ノンフィクション!!

凄い。手塚治虫の凄さはとっくに知っているつもりだったのに、この漫画ではまだまだ驚くべき手塚伝説が語られる。特に『夜明け前』では「こんなことが可能なのか?」と唖然とさせられるほどのエピソードが描かれている(内容は読んでのお楽しみ!)。その他のエピソードでも「嘘だろ」「ありえない」と口走ってしまいそうになるような凄まじい秘話が続出だ。それらのエピソードはもはや驚愕、としか言いようがない(なにしろ想像を絶するので読んでもらいたい!)。不可能を可能にする男、まさにそれが手塚だったのだ。そしてエピソードの合間には突然湧き上がるように手塚の激情がほとばしるさまが描かれ、その漫画を描くという事に対する手塚のマグマの如き情熱に胸を鷲掴みにされてしまうこと必至だ。最初絵柄が泥臭く感じたが、これは漫画作りというものの泥臭さを体言したものなのだろう。この世に神は存在する。そしてそれは手塚なのだ。

■妖怪HUNTER 闇の客人 / 原作:諸星大二郎、漫画:井上淳哉

妖怪HUNTER (BUNCH COMICS)

妖怪HUNTER (BUNCH COMICS)

妖怪ハンター”の異名を持つ異端の考古学者、稗田礼二郎。そんな彼のもとに、かつて稗田が大鳥町の「鬼祭り」を研究した際に協力してもらった地元青年団の二人が現れる。聞けば、彼らはその「鬼祭り」を観光事業として復活させるためにぜひ、稗田に監修を頼みたいというのだ。自らの学説の正しさを証明するため依頼を引き受け大鳥町に訪れた稗田だったが、大盛況の「鬼祭り」のさ中、突然異形の“何か”が現れる―――!!

この『妖怪HUNTER 闇の客人』は諸星大二郎の人気シリーズ「稗田礼二郎のフィールド・ノートより」(「妖怪ハンター」というタイトルもあるが作者は嫌っているらしい)の1作品、『闇の客人(まろうど)』(1990年発表・単行本「妖怪ハンター 地の巻』収録)を若手漫画家・井上淳哉氏の手によりリメイクした作品である。諸星作品のリメイクだと!?と最初はその出来栄えに不安だったが、読んでみるとこれが予想以上にきちんとリメイクされている。まあこれは誰でも思ったことだろうが、なにしろ絵のグレードアップが著しい。さらに背景もきちんと書き込まれている上、美しい描線のツルンとした顔のキャラが諸星原作の雰囲気を壊すことなく描かれていることに感激した。確かに諸星は独特すぎる画風ゆえ、リメイクされることにより逆にそのおどろおどろしさが損なわれてしまうのではないかと思っていたが、それは杞憂だった。その物語展開も原作を幾らか膨らませてはいるが、決して無駄な描写は無く、作品世界を深化させることに成功している。しかしこれを読んで思ったのだが、寡作で知られる諸星は、今後こういった形で原作にまわり絵は他の若手漫画家に任すということもありなのではないか。特に現在雑誌連載中の『西遊妖猿伝』。あれ、この調子で描いているといつ終わるか分かんないから、絵だけ外注ってわけにいかないだろうか。

■るべどの奇石(1) / 室井まさね

るべどの奇石 1 (ヤングジャンプコミックス BJ)

るべどの奇石 1 (ヤングジャンプコミックス BJ)

あなたは、石に興味はありますか――。石には全て物語があり、同じ石はこの世に2つとして存在しない。世界の珍しい石ばかりを取り揃える石屋“るべど"。店長は正体不明の14歳・御影硝子。彼女が扱う不思議な石を巡り、様々な人間が交差する…。不思議鉱石幻想譚、石がもたらす魅惑の物語!!

14歳のメガネっ子女子中学生が数々の怪しげな力を持つ石を売りさばくという不思議物語。諸星大二郎激賞ということで読んでみた。キャラ設定や絵柄は好みではないのだが、きちんと資料をあたったと思われる現実の鉱物の話はそれぞれ面白いし、物語の中心となる奇想を凝らした石の存在も悪くない。一話一話で見てしまうと荒唐無稽すぎてこんな石なんて存在しないだろうという気にはさせられるが、「不思議な石を売る石屋の店主の物語」という統一感で場を持たせてしまう。単行本途中から登場するサブキャラの面々も物語を賑やかせる。ただ全体的にお話が軽く語られ過ぎているきらいがあり、個人的な好みとしてはもっとダークでスケールの大きな展開を期待してしまった。

ハカイジュウ(4) / 本田真吾

ハカイジュウ 4 (少年チャンピオン・コミックス)

ハカイジュウ 4 (少年チャンピオン・コミックス)

突如現れた謎のモンスターの大群により街は破壊され住人達は次々と殺戮されていった。しかもモンスターに襲われた街は巨大な溝がぐるりと囲む閉鎖環境と化し脱出不可能。モンスターたちの正体は。巨大な溝は何故できたのか。主人公たちはこの街から逃れることができるのか。…といったお話の第4巻。相変わらずキチガイ教師の活躍が素晴らしい。モンスターよりも強いっていったいこいつなんなんだ、とさえ思わせる。そしてこの4巻からやっと自衛隊らしき特殊部隊が現れ、モンスター殲滅と捕獲に乗り出すが、これも案の定一筋縄ではいかない連中であることが明らかになる。ただちょっと阿鼻叫喚の地獄絵図と救いの無い絶望感が薄れてきていて、この漫画が参考にしたであろう『ミスト』や『クローバーフィールド』の緊張感を期待していたのに物足りなく感じてきたのは確か。