食中毒!O-111!鳥刺し食うのもそれは必死!〜映画『必死剣 鳥刺し』

■必死剣 鳥刺し (監督:平山秀幸 2010年日本映画)


この映画『必死剣 鳥刺し』は豊川悦司主演の時代劇となります。舞台は江戸時代、トヨエツ扮するお侍さんが、トヨエツの仕えるお殿様のお妾さんをぶっ殺しちゃう所からお話は始まります。なんでお妾さんをぶっ殺さなきゃならなかったのか?というのがこの映画のポイントの一つになります。しかしお妾殺しの重罪を犯したトヨエツは、切腹打ち首を覚悟していたのに、お殿様の命令により、自宅謹慎で刑が済んでしまうんですね。それは何故か?というのが映画のもうひとつのポイントになります。ちなみに映画のタイトル『必死剣 鳥刺し』というのは、この映画の主人公が会得している必殺剣の名前なんですね。多分木の枝にとまる鳥さえも射抜いてしまうような素早く鋭い一撃を繰り出す剣、といった意味で「鳥刺し」ということなんでしょうが、もうひとつ「必死剣」というのは、これの技を出す時は自分も死に瀕しているときであろう、という意味があるわけなんですね。
映画は中盤まで、自宅謹慎するトヨエツと、回想の形で彼がお妾さん殺しを決意するまでの経緯が語られてゆきます。中盤以降はトヨエツが現場復帰させられたのみならず、お殿様の警護役にまで抜擢される様が描かれます。お殿様ご寵愛だったお妾さんを殺したのに、そのお殿様の警護役に抜擢されるのはなぜか?という謎がこの映画の後半を引っ張ってゆきます。そしてクライマックス、警護役に抜擢された真の理由と、警護をすることで成さねばならなくなったある事件の解決にトヨエツは引き裂かれてゆき、そしてラストの刀対刀の凄まじい戦いへとなだれ込んでゆくんですね。ここでいよいよトヨエツは『必死剣 鳥刺し』を使うことになるのですが、それはもちろん、トヨエツの命と引き換えであろう事が、観ている者をどこまでもハラハラさせてゆくんですね。
この映画でとても感心したのは映画で描かれる江戸時代と言う時代の空気感のリアルさなんですね。封建主義に支配されたお武家社会の、その徹底した主従関係のありかたや、そこで必要な礼儀作法、立ち振る舞いの様が、とても本当らしく描かれているんですね。ふすま一つ開けるのにもこうでこうでこういう動きが必要なのか、ということにびっくりさせられますし、また、自宅謹慎というは当時はこんな風に行われていたのか、という決まり事のありかたに驚かされるんです。そして、トヨエツの実時間と回想の中で描かれる日本の四季の描かれ方やそのロケーションが、これがまた美しいんです。こういう、たっぷり時間をかけて撮影され描かれる映像を堪能できるのは、まさに映画ならではの醍醐味だろうし、決してTVの延長線上にあるわけではないしっかりした日本映画のよさ、というものを観るものに伝えてくれるんですね。
その中で特に心を動かされたのは、トヨエツの身の回りの世話をするとある娘のトヨエツに対する、静かでしかしとても熱い恋心の様なんですね。この娘を池脇千鶴さんという女優さんがやってますが、池脇千鶴さんはこう言ってはなんですがとっても美人、というわけではないのですが、この華やか過ぎない顔立ちが逆に、心に秘めたものの激しさを観るものにじわじわと伝えてくるんですね。自分はこの女優さんのことはよく知らないのですが、少なくともこの映画ではとても印象に残る演技をしていたと感じました。
そしていよいよクライマックスの大決闘へと映画は盛り上がってゆきますが、ここの描写もまた素晴らしいんです。時代劇でよく目にするくるくる刀を振り回している決まり事みたいな殺陣ではなくて、実に緊張感溢れる、文字通り真剣を持ったもの同志の真剣勝負が描かれるんですよ!この1対1の緊張感のみならず、1対多数の乱戦においては、これも「攻撃の順番待ち」みたいなわざとらしい殺陣ではなくて、ちょっとの隙を突いてチクチク切り込んでゆくという、嫌らしいからこそリアルな殺陣を観ることが出来るんですね。そしてなにより素晴らしかったのは、その流血の量!動脈をぶった切った時は鮮血がシャワーのように吹き飛びます!ぶっ倒れた相手から流れる血の量もドワーッと床に広がってその色も血の流れる動きも生々しいんですね。もう一つとても興味を惹かれたのは、昔のお侍さんは大小二ふりの刀を差していましたが、トヨエツはまずこの小刀のほうを抜いて戦うんですね。何故なのかはよくわからないのですが、こういった描写がとても新鮮なんですね。
血で血を洗う戦いの末、いよいよ進退窮まったトヨエツは、秘剣・「必死剣 鳥刺し」を使うことになります。それはいったいどんな剣なのか、そしてトヨエツの運命はどうなるのか、お殿様が隠していた陰謀とはなんだったのか、1人残された池脇千鶴はトヨエツと再び生きて会うことができるのか、映画は様々な思いを交差させながらラストへとなだれこんでゆくんですね。映画『必死剣 鳥刺し』はとても端正な情景描写と鮮烈な殺陣を描ききった名作時代劇だと思います。あ、ところで今回のエントリ、変なタイトル付けちゃいましたがただ書きたかっただけです。意味は無いです。どうもすいません。

■『必死剣 鳥刺し』 予告編


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