[MOVIE]映画『パイレーツ・オブ・カリビアン / 生命の泉』はピシャンピシャンキシャーキシャーだったッ?!

パイレーツ・オブ・カリビアン / 生命の泉 (監督:ロブ・マーシャル 2011年アメリカ映画)


パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズの新作・第4作目『パイレーツ・オブ・カリビアン / 生命の泉』です。これまでもこのシリーズ作品は観ていましたが、1作目『呪われた海賊たち』は良くも悪くも健全なディズニー・アトラクション・ムービーといった雰囲気でしたね。しかし2作目『デッドマンズ・チェスト』はどこではじけたのか絶妙なスラップスティック・アクションとダーク・ファンタジーの華麗な融合が楽しい傑作映画でした。シリーズではこの2作目が一番好きですね。ところが3作目『ワールド・エンド』は売れに売れた2作目の夢よもう一度とあれこれ盛り込み過ぎ、結果的にとっ散らかった失敗作になっていましたね。そしてこの4作目では監督をこれまで3作を手掛けてきたゴア・ヴァービンスキーからロブ・マーシャルに変更、さらに3作目で物語に一区切り付いた為か登場人物を一新しての新シリーズという形になっていますね。IMAX3Dで観てきましたよ。
物語は永遠の命をもたらすという"生命の泉"のある島を巡り、スペイン海軍、英国軍側に付いた海賊バルボッサ、史上最強の海賊と謳われる黒ひげの、三つ巴の戦いに主人公キャプテン・ジャック・スパロウが絡む、というものです。物語進行はとってもシンプルで、かなり直線的に伝説の島へと向かっちゃってあっさり着いちゃったりしちゃうんですね。そのシンプルさの割に物語の尺は141分と相変わらず長くて、きっと山あり谷ありのエピソードを盛り込んだものにしようとしたのでしょうが、この盛り込まれたエピソードとその設定が無駄だったり無意味だったりするものが多くて物語に生かせていないんです。例えば渓谷を下るのを嫌がるジャックにロシアン・ルーレットをさせるシークエンスや、黒ひげとアンジェリカが親子なのかそうじゃないのか、といった設定が、実はあってもなくてもいいようなものだったりしているんです。この辺シナリオがかなり弱いんですよね。
にもかかわらず描くべきものや見せるべきものをきちんと見せていない。新キャラである「史上最強の海賊・黒ひげ」が、何故"史上最強の海賊"で、そして黒魔術が使えるのか、ちゃんと描いていないんです。この黒ひげのバックストーリーが描かれていないせいで、黒ひげがどれほど恐ろしい男なのか全然分からないんです。さらにこの黒ひげとバルボッサという、むさ苦しい悪モンの海賊二人のキャラがかぶっちゃってるんですよ。ここはバルボッサは登場させず、悪の海賊は黒ひげ一人にしたほうが、黒ひげという海賊の悪の魅力をもっと掘り下げて描けたでしょうし、ジャック・スパロウ側と黒ひげ側の対立の構図を中心とすれば分かりやすい物語になったような気がするんです。そして英国海軍側は黒ひげとは真逆のキャラを持ってきて絡ませたほうがメリハリが付いて面白かったのではないか。それとジャック・スパロウという男はこれまでのシリーズでも一見主役のようでありながらトリック・スター的な存在だったので、黒ひげと対立すべき中心的な善玉なキャラがもう一人必要でしたが、今回は宣教師がその役を引き受けたにもかかわらず、これがキャラ的に弱くいつも腰が引けてて魅力が無い。このへんのキャラの立て方の不味さも敗因の一つだと思いますね。
これまでの『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズは、呪われた骸骨船員や魚介類船員などのダーク・ファンタジー風味のクリーチャーが魅力の一つになっていますが、この4作目では人を餌食にする人魚の存在がそれに当たるでしょうね。この美しくも獰猛な人魚の群れがピシャンピシャンキシャーキシャーいいながら人間たちと戦うシーンはこの映画の中のハイライトといえるでしょう。この人魚からは"生命の泉"での儀式に必要な"人魚の涙"を得なければならないんですが、この人魚の描き方も微妙で、後半この人魚と人間の恋が描かれますが、でも捕食者と被・捕食者であると最初に描いているわけですから、これが恋愛関係になる、っていうのが意味不明なんですよね。そしてこの部分しかファンタジー風味が無かったのが物足りなかった。他にもスペイン海軍が躍起になって"生命の泉"を目指す理由も説得力が無いし、黒ひげとアンジェリカの関係の描かれ方も中途半端です。2作目にあったようなスラップスティックなアクションの妙味は冒頭だけで、全体的に見ると詰めの甘い、ちょっと残念な作品に仕上がってしまっていましたね。もうちょっと制作費をかけるべきだったかもなあ。