『犬の力』の ドン・ウィンズロウ新作『フランキー・マシーンの冬』

■フランキー・マシーンの冬 / ドン・ウィンズロウ

フランク・マシアーノはマフィアの世界から足を洗ったつもりだった。地元サンディエゴで釣り餌店をはじめ複数のビジネスを営むかたわら、元妻と娘、恋人の間を忙しく立ち回り、“紳士の時間”にはサーフィンを楽しむ62歳の元殺し屋。だが“餌店のフランク”としての彼の平和な日々は、冬のある一日に突然終わりを告げる。過去の何者かが、かつて“フランキー・マシーン”と呼ばれた凄腕の存在を消し去ろうとしていた―。
何者かの罠にはまり姿をくらました伝説の凄腕“フランキー・マシーン”を、マフィアの刺客がつけ狙う。20年来の友人、連邦捜査官のデイヴ・ハンセンも重要証人の殺害容疑でフランクの逮捕状を取った。じりじりと包囲網が狭まる中で、フラッシュバックする記憶をふるいにかけるフランク。誰がなぜ、彼を消そうとしているのか。だが容疑者のリストはあまりに長く、残された僅かな時間は尽き果てようとしていた―。黄昏の元殺し屋に仕掛けられた罠。鬼才、円熟のクライム・ノヴェル。

去年オレの中では大ヒットだったクライム・ノヴェル『犬の力』を書いたドン・ウィンズロウの新作長編だ。しかし帯が可笑しい。「ミステリが読みたい!第2位 このミステリーがすごい!第1位 の『犬の力』に続く待望の最新作!!」となっているが、ぱっと見たらこの作品が年間ミステリの1位2位のように思えてしまう。確かに『犬の力』は本当に凄い作品だったが、この『フランキー・マシーンの冬』では趣向を変え、『犬の力』よりももっとライトで読み易い作品に仕上がっている。上下2巻だが活字の量も少な目で、たいがいの方なら1日2日もあれば読めてしまえるだろう。まあ本を読むのが遅いオレは10日ぐらい掛かったが。

物語は上の粗筋を読んでもらうとして、ザックリ説明すると引退したマフィアの殺し屋フランク・マシアーノがかつて所属していた組織に理由も分からないまま命を狙われるというものだ。凄腕の殺し屋だったフランクは数々の罠を鮮やかに切り抜けてゆくが、追っ手の追撃は決して止まず、フランクは逃亡を続けながら何故自分が命を狙われなければならないのかを探ってゆく。物語の構成は、フランクの逃亡劇を中心としながら、その合間合間に追想という形で、若かりし頃のフランクがマフィアの殺し屋になった理由、その後の数々の"仕事"の内容が語られてゆく。そしてその追想を通し、自らが命を狙われる理由に迫ってゆくのだ。

この追想で語られる"仕事"の数々が、それぞれに「ショート・クライム・ストーリー」という形で完結していて、長編の中に幾つもの短篇が並んでいるような仕組みになっている。読者は長編の大筋と一緒に、殺し屋フランク・マシアーノの半生に起こった細々としたエピソードを楽しむことが出来るのだ。それにより、今や鮮度の低いイタリアン・マフィアという犯罪組織を題材にしながらも、この構成の妙によって面白い小説に仕上げている。大作『犬の力』の後だというせいだろう、軽いウォーミングアップといった内容の作品だが、この軽快さがまた、ドン・ウィンズロウの新たな魅力を引き出していると思う。