映画『リミット』はシンプルなシチュエーションの中でイマジネーションを尽くした映画だった

■リミット (監督:ロドリゴ・コルテス 2009年スペイン映画)


意識を取り戻すと、そこは暗がり、俺は何か狭い所に押し込められ、横たわっている。ライターが見つかったので火をつけてみると、俺は棺桶に入れられ、地中に生き埋めになっているではないか!?なぜ?どうして?そしてここはどこなんだ?他の持ち物は携帯電話、ナイフ、ペン、酒。俺はここから脱出することが出来るのか?…映画『リミット』は、そんな極限状態に置かれた男の、シチュエーション・スリラーである。
なにしろ野心的な映画だ。90分の上映時間の間、登場人物は生き埋めになった男ただひとり、そして舞台はずっと棺桶の中。他の登場人物は電話の声と動画のみ。このシチュエーションだけで観客を飽きさせず90分間のドラマを成り立たせようとしている所がまず凄い。そしてこれが面白く出来上がっているのだ。ずっと同じ場所、同じ一人の俳優だけでどう物語を引っ張ってゆくのか、よく観るとあちこちで工夫が凝らされている。カメラのアングルや移動の仕方、ライターや携帯電話などの光源の明るさや色彩により刻々と変わってゆく棺桶内の映像、主人公と携帯電話の相手とのやり取りのみに終始しない様々なサスペンスの導入、これらは、単調になりがちなシチュエーションを90分間緊張感を持たせるため計算しつくして成り立ったものなのだろう。
物語のあらましは、イラクでトラック運転手として働くアメリカ人労働者がテロに遭う、という背景があるものの、そういった政治的背景がテーマというよりもむしろ、「舞台は棺桶、登場人物はたった一人。持ち物はライターと携帯電話その他」という"縛り"でどう映画を撮るか?どのようにしたら面白い映画が成り立つか?という監督・製作者の自らのイマジネーションへの挑戦として成り立ったものなのではないかという気がする。この映画ではイラク、テロ、といった構図が持ち込まれるが、例えば相手がマフィアだとしたら、同じシチュエーションでも違った展開になるだろうし、閉じ込められた者の立場や、持ち物のバリエーションによっても、やはり違った物語展開を見せるだろう。これを個人的な恨みやSFやホラータッチの超自然的なものとしても物語は展開できるし、なんとなればブラックなコメディとして作ることも可能だろう。そこはもう物語り作りをするもののさじ加減で、どのような映画にだってなるのだ。
そういった、ひとつのシチュエーションからどうテーマを選び、そのテーマに沿ってどう物語を展開してゆくか、どうアイディアを盛り込むか、どう観客の意表を突き驚かせることができるか、といった知恵比べともいえる部分がこの映画の本当の面白さであり、その展開とアイディアの妙を堪能できれば観客にとっても実にスリリングな映画体験となることができるだろう。そういった意味では、この映画、とても製作者が楽しんで作ったような気がしてならないし、その製作者側の楽しさが、観客にも伝わってくる映画作りがなされているように感じる。シンプルなシチュエーションのせいで小品扱いになりそうな作品だが(自分もそう思っていた)、しかし小粒でもピリリと辛い作品に仕上がっていたことは確かだ。
しかし下世話な話をすると、こんな映画だったらさぞや制作費も安かったろうなあ!と誰もが思うだろうが、実際の制作費は約2.5億円、これが安いのか高いのかさっぱり分からないが、意欲のある方なら、安い制作費で、こんなシンプルなシチュエーションながら想像力を尽くした映画を撮ってみたい、と思わせられるのではないだろうか。そういった、自分だったらどう作るだろう、と思わす映画でもあった。

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