望みの無い夜に、彷徨いながら、彷徨いながら。〜映画『ドアーズ/まぼろしの世界』

■ドアーズ/まぼろしの世界 (監督:トム・ディチロ 2010年アメリカ映画)

僕らが死のうとしていた夜も終わった
        ――ドアーズ 「ジ・エンド」

ドアーズの曲を始めて聴いたのは10代の半ば、FMラジオの音楽番組でだった。多分雑誌か何かを読みながら流していたそのラジオから、異様な音楽が流れ始めたのだ。野太い声で絶叫するヴォーカルとドロドロと鳴り渡る演奏。これはなんだ?と慌ててラジカセ(そう、当時はラジカセが一般的だった)にカセットテープを突っ込み、録音を始めることにした。音楽が終り、DJは今の演奏がドアーズというバンドのライブであることを告げた。その音源は、既に発売されていたドアーズの『アブソルートリー・ライブ』というアルバムのものだった。ドアーズ、1965年結成、そして1971年、ヴォーカルであるジム・モリスンの死により、活動を停止したバンドである。

Absolutely Live

Absolutely Live

当時ちらほらとロック・ミュージックを聴き始めていたオレだったが、好みがかなり歴然としており、ブリティッシュ・ロック、しかもプログレッシブ・ロックやグラム系がメインで、アメリカン・ロックとなると、これが何故か、全く受け付けなかった。アメリカン・ロックの、乾いた軽快さが、年中どんよりした雲で覆われている寒冷地に住んでいたオレにとって、相容れない空気感を持っていたのだろう。しかし、アメリカン・ロックであるはずの、このドアーズだけは違った。一般的なアメリカン・ロックの明快さとは袂を分かつ、何か圧倒的な暗さと情念、そして死の願望と狂気が、このロック・バンドからは感じられたのだ。

ドアーズのアルバムはそれから2枚買った。デビュー・アルバムの『ハートに火をつけて』は傑作だった。大ヒットしたシングル『ハートに火をつけて』のキャッチーさはもとより、『水晶の船』の幻想的な風味もお気に入りだったし、なによりラストの曲『ジ・エンド』の暗くどこまでもドロドロと演奏される展開は大好きだった。ただ、他のアルバムとなると、試聴はしてみたものの、1stの持つインスピレーションがどんどん薄まっていっているような気がして、あまり食指が動かなかった(2ndの『まぼろしの世界』も多分傑作だと思うんだけど、録音したライブと曲が被さっているので買わなかった。中高生なんでそんなにお金が無かったんですよ)。

ハートに火をつけて

ハートに火をつけて

しかしその後、ジム・モリスンの"新譜"がいきなり発売されたのである。そのアルバムのタイトルは『アメリカン・プレイヤー』。ドアーズを聴き始めた時には既にジム・モリソンは死んでいたし、バンドも解散していたけれども、このアルバムは、ジム・モリソンの残した詩の朗読テープを元に、かつてのバンド・メンバーが音楽を乗せたという奇妙な経緯を持ったアルバムだった。しかし、このアルバムに、オレは、見事にはまった。その音楽ではなく、その詩の世界に。モリソンの詩は、死と高揚と破滅願望に満ち満ちていた。そして、その詩は美しかった。オレは詩の対訳と首っ引きでジム・モリソンの朗読を何度も何度も聴いた。一部は暗記してそらんじる事さえ出来た。その詩に影響されて、自分も大学ノートに何冊も詩を書いた。オレにとって、ドアーズ=ジム・モリソンとは、このアルバム『アメリカン・プレイヤー』だったのだ。
American Prayer

American Prayer

相当長い前置きになったが、この映画『ドアーズ/まぼろしの世界』は、ジム・モリソンを中心にドアーズというバンドに肉薄したドキュメンタリーだ。当時残されたフィルムのみで構成され、ナレーションをジョニー・デップが担当した映画だ。途中、イメージ・ビデオのようなものが挿入されるが、最初モリソンのそっくりさんで撮り直されたものかと思っていたけど、どうも実際ああいうビデオが残っていたのらしい。映画は、コンサートの模様を交えながら、ドアーズとその時代の空気を画面に映し出す。しかし、少し考えればわかることなのだが、ドアーズとビートルズが同時代のアーチストだということを、こうして映画で観て改めて知ったのだけれど、その60年代後期から70年代の時代性とドアーズが、自分の中でどうにも結びつかなくて戸惑った。
それは、ドアーズというバンドに、というより、『アメリカン・プレイヤー』のジム・モリソンに、自分が、時代を超越したものを感じていたからなのだろう。早世したロック・ミュージシャンは数いるが、自分には、ジョイ・ディビジョンのイアン・カーチスと、このジム・モリソンが、その鮮烈な、死へ甘やかなる願望に満ちた音世界ゆえに、どこか痛みにも似た、あたかも仄暗く燃える鬼火のような記憶として刻印され続けているのだ。

ドアーズ / まぼろしの世界 [DVD]

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サウンドトラック~ドアーズ/まぼろしの世界

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