映画『ファンタスティック Mr.FOX』はダンディでクールなキツネが主人公だった!

ファンタスティック Mr.FOX (監督:ウェス・アンダーソン 2009年アメリカ・イギリス映画)


童話に登場するキツネって基本的にずる賢い悪漢役が多くて、子供の頃はそういうのがあんまり好きではありませんでしたね。勿論悪者ばかりではなくて、童話「手袋を買いに」では手袋が欲しくて自分の前足を人間の手にしちゃうキツネなんていうのが出てきて、これなんかは読んでいて愛おしい気持ちになってしまいます。そもそもキツネは化けたり化かしたり怪しい業を使う霊獣として古来から扱われていますよね。キツネの物語で一番好きなのは伝説のキツネ「葛の葉」を題材にした歌舞伎の演目を、手塚治虫が中篇漫画にした 「悪右衛門」です。とても悲劇的な結末が胸を締め付ける物語ですが、そこで描かれる美しい叙情は手塚の中篇の中でもピカイチでしょう。手塚の短編集を探せば収録されていると思いますので興味の沸いた方は是非一読を。

さてこの『ファンタスティック Mr.FOX』はロアルド・ダールの原作童話をウェス・アンダーソンが映画化した作品になります。CGアニメが全盛の昨今ですが、この映画はストップ・モーションを使った人形アニメなんですね。このローテクさが逆に擬人化された動物たちのジタバタした動きや毛並みのモフモフ感を味わい深く表現していて、ある意味CGなんかで描かれるよりも観ていて楽しいお話になっていましたね。原作は読んだことは無いのですが、ここで描かれる主人公のMr.Foxはとてもクールでダンディだし、奥さんのMrs.Foxは旦那にきちんと意見を言うリアリストだし、その息子のアッシュ君は今風のティーンを思わせる変わり者、といった描かれ方をしていて、こういったキャラクター設定がとても大人っぽく、決して子供向けだけではない作品に仕上がっているんですよ。このへんのスタイリッシュさというのが案外監督ウェス・アンダーソンのカラーなのかもしれませんね。Mr.Foxの声をジョージ・クルーニー、Mrs.Foxをメリル・ストリープが演じているところも映画ファンには嬉しいでしょう。

しかしクールでダンディなMr.Foxやとても人間臭い他の動物たちが、ご飯を食べる時だけはガルルル!とか言いながらメチャクチャに食い散らかしたりするシーンなどはいくらバッチリ洋服でキメてても実は野生動物なんだ!ということを思い出させてくれて可笑しかったですね。すぐ思考停止して目が空ろになっちゃうオポッサムとか、やられちゃうと目がバッテンになっちゃう動物たち、みたいな演出も楽しいものがありました。あんまり出来のよくないMr.Foxの息子のアッシュ君と、なにをやらせてもソツの無い甥っ子のクリストファソン君との確執なんか、ここだけ普通の人間ドラマ見せられているみたいで、このへんのくすぐりの上手さに監督の手腕が発揮されていますね。ただ、全体的にキャラクターを映す構図が正面・側面だけに終始しており、これは狙ったものなのか技術的・製作コスト的な限界のせいなのかどうかは分からないのですが、この紙芝居的な構図のせいで絵作りが単調になり、ダイナミズムの欠けたものになってしまっているような気がします。そういった点を除けば、ストップ・モーション・アニメの魅力の詰まった素敵な作品に仕上がっておりましたよ。

■映画『ファンタスティック Mr.FOX』メイキング映像


Fantastic Mr Fox

Fantastic Mr Fox

すばらしき父さん狐 (ロアルド・ダールコレクション 4)

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