オレ・シネマ・パラダイス (その1)

今日から3回に渡って子供の頃の映画体験の話を書こうと思います。

■《東映マンガ祭り》と《東宝チャンピオンまつり》

小さな頃から映画館にはよく連れて行って貰っていましたね。マンガ映画や特撮怪獣モノが上映されていたら必ず観に行かされました。当時は《東映マンガ祭り》というタイトルで、新作長編アニメ1本に20分程度のTV放送アニメを数本抱き合わせして、本数の多さでお得感を出していたような気がします。特撮怪獣モノにもやはりTV放送アニメが抱き合わせされていましたね。こちらは《東宝チャンピオンまつり》というタイトルだったようです。
特撮怪獣モノだと有名所のゴジラガメラ、他にもガッパだのゲソラだのサンダだのガイラだの…と相当沢山の特撮怪獣映画を劇場で観ていました。一番記憶に残っているのは『ガンマー大作戦』という宇宙ステーションを舞台にした特撮SFものなんですが、これ、グロテスク過ぎるモンスターの造型もさることながら、焼け焦げた死体とか出てきて、子供心に相当怖い映画だと思っていました。ちなみにこの映画、大人になってから調べたら、あの深作欣二監督作品だったんですね。マンガ映画で記憶に残っているのは《空飛ぶ幽霊船》と《長靴をはいた猫》です。現在東映アニメーションとして知られる東映動画の作品で、宮崎駿氏や高畑勲氏もアニメーターとして参加されていたんじゃないかな。調べると、これらは1960後半〜1970年代前半のもののようですね。オレは1962年生まれなので、10歳前の頃はこんな映画を観ていたというわけです。

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■田舎の映画館

当時オレの田舎には映画館が2館ありました。1つは邦画、もう1つは洋画を専門にそれぞれ上映していました。もう1館、ピンク映画専門で上映していた劇場もあったような気もするんですが、記憶が定かではありません。子供の頃よく観た邦画は『男はつらいよ』や、ドリフターズコント55号などの喜劇映画でしたね。田舎なのでどの映画も関東でロードショーされてから3、4ヶ月、さらには半年以上経ってからやっと公開されます。その時はたいがい2本立て上映で、言ってみれば関東の名画座のような公開形態でした。
子供の頃ですから映画はどれも親や親戚のおじさんと一緒に観ていました。特にこの親戚のおじさんというのが大変映画好きで、なにかというとオレを映画館に連れて行ってくれました。で、このおじさんが映画に行く前に薬局に寄るんですね。そして薬を買う振りをして、薬局に貼ってある上映映画の宣伝ポスターの裏側を探るんです。実は当時、映画ポスターの裏側には優待割引券が貼られていたようなんですね。おじさんはこの割引券が目当てでポスター裏を探っていたんです。この映画好きのおじさんは映画前売り券・割引券のコレクションもしていて、見せてもらった中には『2001年宇宙の旅』や有名なアメリカン・ニューシネマなど、今持っていればちょっとした貴重なコレクションだっただろうものがたくさんありました。あのコレクションはあとで全部オレが貰ったのですが、いつの間にかどこかへ無くしてしまいました。残念。
映画を観終わった後のお楽しみは映画館の外に貼られた、今観終わったばかりの映画のスチール写真を眺める事でした。「こんなシーンあったよね」などと一緒に行った兄弟なんかと見入っていました。当時はチラシとかパンフレットみたいなものが無かったので、観終わった映画は記憶の中にしか残らず、このような形になった”映画の記憶”が何かとても眩しかったんですね。

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ポセイドン・アドベンチャー

それまでTVの吹き替えした外国映画しか観た事のなかったオレが劇場で洋画を観たのは小学校4年生の時です。忘れもしないそのタイトルは『ポセイドン・アドベンチャー』。大晦日の夜、豪華客船が高波を受けて横転、上下逆になったまま辛うじて浮かんでいるポセイドン号の中で、生き残った少数の人たちが死を賭けた脱出を試みる、といった内容のパニック映画です。
友人とその家族に連れて行ってもらったんですが、映画が始まる前に「これって吹き替えしてあるの?」と相当気にしていたのを覚えています。劇場上映の映画もTVみたいに吹き替えしてあると思ってたんですね。映画は当然字幕でしたが、そんなことより、TVで観るよりも段違いの迫力で迫ってくる映像に、小学4年生のオレは度肝を抜かれてしまいました。これまで観ていた映画は、結局はTVの延長だと思って観ていたのですが、この『ポセイドン・アドベンチャー』は、紛れも無く《映画》そのものであり、ある意味これが本当の”映画初体験”だったのだと思います。
洋画の魅力に取り付かれた小学4年生のオレは、それ以来、劇場でかかる映画をジャンルなどお構い無しに片っ端から観ました。時には学校帰りに映画を観に行き、夜遅く家へ帰るなんてこともやっていたのですが、さすがに学校に見つかり、担任教師に怒られたこともありましたね。
子供だったので全然意味の判らない映画も結構ありましたね。大人になると心の中に孕んでしまう、不条理や不合理、性そのものよりも性的代償として行われる行為、破滅や破戒の願望、こういったものは全く理解できませんでしたね。今は、ええ、もう、全て理解しているというか、率先して不条理にドロドロと生きていますけれどね。