ヒーロー・アクション『グリーン・ホーネット』はずっこけ映画だった!?

グリーン・ホーネット (監督:ミシェル・ゴンドリー 2011年アメリカ映画)


劇場で『グリーン・ホーネット』の予告編を初めて観た時は「またロートル・ヒーローもんの焼き直しかー?ってかなんでヒーローがセス・ローゲン?いったいどうしたいの?ぐぇっ、おまけに3D!?もうそういうの飽きたわーもういいわーぜってー観にいかねー」と鼻くそほじりながら思っていたが、その後この映画の監督があのミシェル・ゴンドリーだと知り、椅子からずり落ちてしまったオレである。ゴンドリーはん、なんや、なんでや…なんでこげな映画撮らんとあかんのや…。オレの頭の中ではきっと相当の訳があるに違いない、とばかりに借金苦のゴンドリーや荒れ果てた部屋で酒に溺れているゴンドリーや家族を人質に取られ狂乱するゴンドリーの姿が思い浮かんでしまい、あまりの不憫さに「こりゃあ観に行かなきゃゴンドリーはんが浮かばれん…なんまんだぶなんまんだぶ」とか思い劇場に足を運んだというわけなのである。
主人公は新聞社社長のドラ息子。こいつが普通にボンクラ。で、親父が謎の死を遂げ、なんだか知らないけど正義のヒーローやりたくなっちゃうんだよな。まあボンクラの発想らしいけど。そしてその時見つけたのが親父の運転手カトー。なんとこのカトー、やたら格闘技の腕が立つ上にとっても賢くて、物凄い発明家だったりする。そんだけ才能のあるヤツがなんで運転手風情にくすぶってたのかよく判んないんだけど。で、ボンクラ息子はもっけの幸いとこいつを相棒にし、街のチンピラどもをばったばったとなぎ倒してしまう。正確にはボンクラが鼻水垂らしながらあたふたしている所をカトーが全員ノシてただけなんだけどね!
しかしなにしろそこはボンクラ、自分スゲエ、自分カッコイイとか勝手に調子に乗り、「オレらサイコーのパートナーじゃね?」と勘違いしたことを抜かしながらその後もワルモノどもを襲ってはいたぶりまくり悦に入ってたんだな!もちろんボンクラは何にもしねーでカトーの発明とカトーのカンフーが全部やってたんだけどね!そこに現れたのが新任美人秘書。ボンクラはこの美人秘書に熱を上げ鼻の下を伸ばしながら口説こうとするんだが、美人秘書はカトーのほうに興味があったんだよな!怒るボンクラ!言ってないけど「中国人の下僕のくせに生意気だ!」とか絶対思ってたよなコイツ!かくして正義チームは分裂の危機に!しかもチンピラの挑発に「オレの作戦で行くんだ!中国人は黙ってろ!」と乗り込んで行って案の定ズタボロにされ命の危機に!おいおい大丈夫かよボンクラ息子!?…というのがこの『グリーン・ホーネット』なのである。
まあ以上のあらすじを読んでもらえば判るように、非常にしょーもない映画なのである。金持ちのボンボンが現実味の無い妄想をぶち上げて、その下働きの人間がしゃーねーな全くよう、とか言いながら付き合ってあげているような構図なのである。しかし実の所映画のカトーも結構楽しそうにワルモノをいたぶってたが、多分発明オタクの自分の発明や、誰にも負けない格闘技の技を披露する場が見つかって喜んでいたのかもしれない。だとすると一見ボンクラ野郎の遊びに付き合っているだけのように見えて、カトーだって才能有り余ってるのに運転手風情に甘んじているという現実生活の鬱憤をワルモノ退治で晴らしていたともいえるじゃないか。そう考えると二人揃って困った連中だということになってしまう。おいおいなんなんだこの映画!
監督のミシェル・ゴンドリーはミュージック・ビデオ界で数々のユニークな作品を手掛け、その後も映画監督として『エターナル・サンシャイン』や『僕らのミライへ逆回転』などの傑作を作り出してきた人なんである。オレは映画のほうは今挙げた2作しか観ていないんだけど、結構好きだった。好きだったが、映画館でのあの感動をもう一度、とばかりにDVDで観直すと、なんだかやたらドタバタしたところばかり目立つ作りになっているんである。実の所『エターナル・サンシャイン』のラブロマンス展開も、『僕らのミライへ逆回転』の映画製作への愛も、全てドタバタで料理されている。こう思い返してみると、このミシェル・ゴンドリー、ドタバタの映画作家だということもできるのだ。そしてこの『グリーン・ホーネット』も、ヒーロー・アクションと見せかけておいて、やってることはドタバタなのである。つまり、映画『グリーン・ホーネット』は最初からスラップスティック・ムービーとして観るのが正解であり、バットマンスパイダーマンのようなヒーロー・アクションを期待すると壮大にずっこけるのだ。そしてオレは壮大にずっこけたのである。