『進撃の巨人』読んだ

進撃の巨人(1)(2)(3) / 諫山創

進撃の巨人(1) (少年マガジンKC)

進撃の巨人(1) (少年マガジンKC)

進撃の巨人(2) (講談社コミックス)

進撃の巨人(2) (講談社コミックス)

進撃の巨人(3) (講談社コミックス)

進撃の巨人(3) (講談社コミックス)

巨人がすべてを支配する世界。巨人の餌と化した人類は、巨大な壁を築き、壁外への自由と引き換えに侵略を防いでいた。だが、名ばかりの平和は壁を越える大巨人の出現により崩れ、絶望の闘いが始まってしまう。

なんだかすっかり話題のコミックになっている諫山創の『進撃の巨人』。よく行く漫画書店に行ったら大型ポップが飾られ3巻全部平積みされてたなあ。舞台はいつとも知れない未来。人類は人を餌として食らう謎の巨人たちに追いやられ、巨大な環状の壁の中に作られた町の中で細々と暮らしている。文明は後退し、科学技術レベルも建物の佇まいもどことなくヨーロッパ中世を思わせる(銃や車が存在しないのだ)。まずこの人類の"町"が、どことなく抽象的なのが奇妙だ。広大な平野に建てられているらしいが、人々は海を知らず、山のようなものも見当たらない。産業や食糧生産がどうなっているのかも明らかじゃない。考えてみればここが地球かどうかも定かじゃない。町はただ、外界から隔絶され、その中でのみ安寧が保たれている場所として設定されている。

そして巨人だ。人の形をしているけれども、なぜそうなのかは分からない。この巨人は人を餌とするが、どうも食料として食べているのでもないらしい。そもそも食べていなくとも生存しているようなのだ。しかも強大な再生治癒能力を持ち、普通に考えられる"生物"とはちょっと違う謎の存在だ。僅かに残された人々はこの巨人と人類存続を賭けた絶望的な戦いを繰り広げるが、そこで描かれるダイナミックなアクションとは別に、多くの謎を孕んだまま進行してゆく物語でもあるのだ。この謎の中には意外と作者の設定ミスもありそうだが(そもそも1巻目終盤から2巻目にかけて大きな矛盾が存在する)、この謎の存在が物語に興味を抱かせ引っ張ってゆく要因になっているだろう。更に要所要所で意外な展開を見せて驚かせ、決して飽きさせることが無い。

それと合わせ、作者のある種の"若さ"が物語を面白くしている。まず絵が拙い。拙いのだが、酷いというほどでもないし、作者の持つ熱気と勢いを感じることができる絵だ。そしてこの拙い絵が、巨人の造型をより不気味にしている。描かれる人物や建物の歪さも、どことなく薄気味悪さを醸し出している。物語展開はどこか懐かしくもある熱血調だ。主人公の少年はいつも眉間に皺を寄せ、世界と自分のあり方に憤り、いきり立ち、声を張り上げ、そして何が何でも巨人を根絶やしにする、と息巻く。この"熱さ"が由緒正しい少年漫画を思い起こさせるのだ。しかしそれと相対して、巨人によってもたらされる"死"の描きかたは冷徹であり、どこか乾いている。オレはこの貧相な絵柄と乾いた死の描き方に『寄生獣』の岩明均を思い出してしまった。

今後の展開が読めないのでなんとも言えないが、少なくとも初期の構想として、"外界から隔絶された環境にある土地でそこに住む住民が兵士となり存亡を賭けた戦いが行われる"という部分に、「日本がもし有事となったら」という仮想の状況を重ね合わせているのではないかという気がする。日本という海に囲まれ隔絶された環境で安穏と暮らしてきた自分たちが、突然周囲から侵略され戦争に巻き込まれたらどうなるのか?ということだ。そして自分はその中で戦えるのか?ということだ。さらに3巻目からはなんとエヴァンゲリオン展開だ。"あれ"ってなんだかエントリープラグを思い出させるじゃないか。ということは巨人というのは、これまで少年漫画が描いてきたロボットという存在を巨人に置き換えたのものなのか。謎が謎を呼ぶ『進撃の巨人』、今後の展開が楽しみである。

(12/24追記 うあっタイトル『追撃の巨人』になってた。誰にも分からないようにこっそり直しておこう・・・)