■クライブ・バーカー 血の本 (監督:ジョン・ハリソン 2009年イギリス映画)
クライブ・バーカーの『血の本』といえばホラー作家バーカーの名を一躍世に知らしめた処女短編集ですな。全6巻で発表された長大な作品集ですが、そのプロローグ(日本ではエピローグとして編集された)を映画化したのがこの『クライブ・バーカー/血の本』であります(ところで偉そうに書いているがオレはこの短編集全部読んでない…)。
物語は体中におびただしい数の創傷を負った青年がその創傷の正体を語るところから始まります。彼はかつて霊の巻き起こした惨たらしい事件が起こったとされる屋敷で、心霊研究家の女性心理学者と霊存在の実証実験を行っていたんです。そして怪しい存在が屋敷のあちこちで蠢き始め…といったもの。一言で言ってしまえば幽霊屋敷物語で、テーマ的には若干平凡なんですが、雨のそぼ降るイギリスの町、暗く寒々しい屋敷で巻き起こる怪異、というのは、ありふれていながらも意外と雰囲気がいいのですわ。
そしてバーカー原作らしさが出てくるのは女性心理学者と被験者の青年が淫蕩な情事に耽り始めるところからでしょうな。女性心理学者、という堅そうな肩書きを持ちながらも一皮剥くと熟れた肉体を持て余し淫らな妄想に身をよじる牝犬でしかない、という描かれ方が素晴らしいですな!結構歳はいってるんですがねえ、年増の魅力で青年をたらしこんでアヘアヘとやりまくっちゃうわけです!陰惨な事件があった館での爛れた情交、というのがこのお話のポイントになるわけですな。
考えてみればバーカーが原作・監督だった『ヘルレイザー』もこんな設定の物語だったような気がしますよね。あの物語も、魔界と繋がりを持ってしまった男の潜む薄気味悪い館で情欲に狂った女が暴走しちゃうってお話ですよね。この映画『血の本』には魔道士こそ出ては来ないけど、閉ざされた陰鬱な部屋で背徳と異世界が交わり、最後に血塗れの饗宴が全てを覆い尽くすって部分が共通してますよね。このエロと血の混じりあった隠微な頽廃感こそまさにバーカー節と言ってもいいんじゃないでしょうか。
特にクライマックス、霊界の道が開き、青年が"血の本"となるシーンは、悪夢と官能がないまぜになった圧倒的な幻想味に溢れているんですよ。場面こそ少ないけどグロテスクなスプラッタ・シーンもきっちり添えてあり、中盤までの凡庸さを一蹴してくれるんです。惜しむらくはこの『血の本』、なにしろ原作のプロローグであり、ここまで見せてくれるなら全てとは言わないまでもTVシリーズか何かで他の作品の映像化もやってもらいたくなるというのがホラーファンのの人情でしょうか。
○参考:クライヴ・バーカー 血の本/[SAMPLE]ビデオながら見日記
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