特撮オヤジの撮ったゴシック・ホラー〜映画『ウルフマン』

■ウルフマン (監督:ジョー・ジョンストン 2010年アメリカ映画)


この映画『ウルフマン』は1941年製作のユニバーサル・ホラー『狼男』のリメイク作品となる。ロン・チェイニー・ジュニアが主演したオリジナル版は未見だがストーリーのアウトラインはそれほど大きく変わっていないようだ。イギリスの鬱蒼とした片田舎を舞台に、狼男の殺人事件を追う主人公が自らもまた狼男となり苦悩するといった古典的なモンスター・ホラーであり、このリメイク版も重苦しく陰鬱なゴシック・テイストが横溢する物語となっている。そういった雰囲気を楽しむことが出来れば面白い映画として観ることも出来るだろうが、物語としての新鮮味が薄く、なんでこの今、古臭い狼男の物語を御丁寧になぞった映画を観ていなきゃならないんだ?という気がしないでもない。

そもそもモンスター・ムービーでは狼男というキャラクターは吸血鬼あたりと比べてどうも洗練さに欠けるというかガサツなモンスターのように思える。吸血鬼がセックスのメタファーだとはよく言われることだが、狼男はリビドーのメタファーと言えるかも知れない。猛り狂って放出するが、結局は独りよがりなところがあり、そこが狼男物語の虚しさに通じるのか?だが狼男をテーマとした映画は割と傑作が多く、吸血鬼映画と比べたら見劣りはするが、ちょいと昔に『狼男アメリカン』や『ウルフェン』、『ハウリング』、『狼の血族』あたりがまるでブームのように公開されたのが記憶に残っている。

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そういえば古典における3大モンスターといえばあとフランケンシュタインの怪物がいるが、これのリメイクはちょっとも芳しくない。メル・ブルックスの『ヤング・フランケンシュタイン』はパロディだし、ロバート・デ・ニーロが主演した『フランケンシュタイン』というリメイク作があったが、これもゴシック・テイスト満載ながらもやはり新味に欠ける映画だった。
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その点コッポラがブラム・ストーカー原作を忠実に映画化した『ドラキュラ』は、やはりゴシック・テイストながらも淫靡さと退廃臭に満ちて見どころのある作品だったと思う。やはりオリジナルのゴシック・テイストにこだわるよりも、『ヴァン・ヘルシング』や『アンダーワールド』に登場する、けたたましくてサイバーなモンスターの方がやはり見栄えもするし面白い。実はこの2作、オレは結構好きだったりする。ただどちらにしろ狼男もフランケンシュタインの怪物もモンスターとしてはご隠居レベルな気がする。吸血鬼だけはやはり元気だが、それよりも今一番元気がいいモンスターといえば『ゾンビ』に尽きるだろう。
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そんな狼男をなんで今更リメイク?と思って観ていたのだが、もちろんリック・ベイカーが昔とった杵柄で10年1日の如く狼男の特殊メイクに燃える姿にロートル・ファンが声援を送る、という側面だけではなく、実はこの『ウルフマン』の監督であるジョー・ジョンストン、結構な経歴の持ち主なのだ。以下にWikipediaからのコピペを載せよう。

○監督作品
ミクロキッズ』『ロケッティア』 『ジュマンジ』 『遠い空の向こうに』 『ジュラシック・パークIII』 『オーシャン・オブ・ファイヤー』 『ウルフマン』
○主な特殊効果作品
スター・ウォーズ/新たなる希望』『スター・ウォーズ/帝国の逆襲』『スター・ウォーズ/ジェダイの復讐』『レイダース/失われたアーク』『イウォーク・アドベンチャー』『ニューヨーク東8番街の奇跡
○キャラクターデザイン
アイアン・ジャイアント
Wikipedia:ジョー・ジョンストン

特撮映画ファンなら知っていて当たり前、特撮映画ファンなのにもかかわらず名前を知らなかったダメ映画ファンのオレでさえ作品リストを観て「うおォン」と吼えたぐらいである。特殊効果作品として挙げられているSWシリーズや『レイダース』は言うに及ばず、監督作品に関しては全て観たわけではないが列挙された作品名を見て「ああ、なるほど」と思えるような筋金入りの特撮オヤジだったのだ。

こんな特撮オヤジがどうしてどちらかというと見た目が地味な『ウルフマン』を撮ろうとしたのか?それはこれまでの特撮主体、特撮が真の主人公だった映画ではなく、特撮を活かしながらも古典的な物語をきちんと描きたい、つまりはきちんと物語が生きる作品を撮りたい、と監督が考えていたからなのではないか。結果的には監督の思惑通りの作品には仕上がってはいなかったとはいえ、一人の特撮オヤジの意気は伝わったことは伝わった。ただやはり特撮オヤジは特撮撮ってナンボ、という部分を見据えて今後の作品の制作に当たられるとよろしいのではないか、とちょっと思ったオレである。ちなみにBDには1941年版『狼男』が収録されているよ。字幕ないけど。

■ウルフマン 予告編