それはスピースピーだったッ!?

先日映画を観に行った時のことである。映画が始まってしばらくしてオレは異音を感じたのである。それは隣の席のオッサンの「スピースピー」いっている鼻息の音。ううんなんだか耳障りだ…しかし当日観に行った映画はけたたましいアクション映画。銃声や爆音がズドドドドなどと響きわたればオッサンの鼻息の音をかき消して気にならなくなるに違いない。うむ、神経質になることなどない。そう思って映画を見始めたのだが。しかしそれは甘かった。

オッサンの鼻息は、ド派手なアクションシーンになればなるほど、それに比例して音が高まっていったのだ!つまりは「ド派手なアクション→興奮が高まる→呼吸が激しくなる→鼻息が高まる」という相関関係だったのである。仮にこれを実況するならば「ズドドドド!」「スピースピー!」「ズドドドド!!」「スピースピー!!」「ズドスピズドスピ!!!」なのであって、隣にいるオレなどはもう喧しいやら気になるやらで映画どころではなくなってきていたのである。

それだけではない。ド派手なアクションシーンが終わり映画に静寂が訪れる。出演者たちがほっとひと息つくシーンである。すると隣のおっさんもほっと一息ついたのか、「スピィーーーー…」とそれはそれは深く鼻音を立てるのである。オレもうすっかり涙目である。因果なオッサンの隣りに座ったものである。まあしかし、こういうものは気にすれば気にするほど気になるのである。なんか日本語としておかしいがそういうものなのである。そう、きっとオレは今、天に試されているのだ。落ち着き払った大人なオレを貫き通さなければならないのだ。

そう思っていた矢先、隣のオッサンの「スピースピー」音のそのまた向こうから「ゲプ」という大きな音が轟いたのである。4つほど離れた席のオッサンが上げたゲップの音である。それはもう見事なゲップの音である。「世界ゲップ音選手権」が開催されたなら世界チャンピオンを勝ちとるであろうほどの素晴らしいゲップの音である。もしも宇宙人が地球に訪れ、「げっぷトハドウイウモノデスカ?」と問われたら、「これがそうです」と聞かせてあげたくなるほどに見事な完成度のゲップの音なのである。

ゲップの音をこれほど豪快に鳴り響かせるのも随分下品だとは思うが、そこはオッサン、なりふりなど構わないものであろうことは同じオッサンであるオレもなんとなく分かるのである。ま、しゃーねーな、とやり過ごしてオレは映画に集中することにしたのである。するとしばらくして。「ゲプ」。またしてもあのクリスプかつ歯切れのいいゲップ音が鳴り響くのである。うーん。まあゲップの音ぐらいで目くじら立てんでも…と思ったその瞬間だ!

「ゲプ」「ゲプ」。なんと4つほど離れた席のオッサンのゲップ音が鳴り止まないではないか!?なんなのこのオッサン!?またもや神経がキリキリしてきたオレの耳元で今度は鼻詰まりのオッサンがスピースピーとやっている!ゲプ!ゲプ!スピースピー!ゲプ!ゲプ!スピースピー!もはや劇場はジャングルの動物たちが咆哮を上げているがごとき雑音の無法地帯!「いやだあああああああ!!」オレは耳を押さえ泣きながら席を立ちそのまま劇場から走り去ったのはいうまでもない(この辺はちょっとフィクション)。みなさん映画館では周りの迷惑にならないように注意してね!