映画『9〈ナイン〉〜9番目の奇妙な人形〜』は奇妙な世界の人形たちの戦いを描いたCGアニメだった

■9〈ナイン〉〜9番目の奇妙な人形〜 (監督:シェーン・アッカー 2009年アメリカ映画)


人類滅亡後の廃墟で目覚めたのは、麻袋を縫い合わせたような小さな人形だった。「9」という文字が背中に書かれたその人形は、廃墟の中で他の仲間たちを見つけ、彼らを襲う凶暴な機械獣と戦いを繰り広げることになる。世界は何故滅んだのか?この機械獣はいったいなんなのか?そして彼らは何の為に存在させられたのか?――CGアニメーション『9〈ナイン〉〜9番目の奇妙な人形〜』はこんな謎を孕みながら物語が進んでいくんですね。

小さな人形たちが主人公ですから、彼らが冒険するその世界も縮尺が大きくなり、豆電球を杖の上に乗せて明かりにしたり、包丁があたかもドラゴンスレイヤーのような巨大な武器となったり、というのが面白い効果を上げています。彼らを襲う機械獣は本当は猫か犬ぐらいの大きさなのでしょうが、これも縮尺のせいで恐ろしい大怪獣のように見える。実はこの作品、「トムとジェリー」や「トイ・ストーリー」みたいな作品を人形とロボットに置き換えたダーク・ファンタジーだということもできるかもしれない。登場するそれぞれの人形はどれも見た目や性格が個性的に作ってありこれも楽しめました。

もともとは監督・シェーン・アッカーが、UCLAの卒業制作として製作した11分の短編アニメ作品を、あのティム・バートンが惚れ込んで製作にまわり、長編として完成させた作品ということらしい。確かにティム・バートンの好みそうなダークかつジャンク趣味に溢れた世界観を持っていますが、それと同時にシュヴァンクマイエルやブラザース・クエイあたりもきちんと学習しているなあ、という気がしました。下の動画がこの『9〈ナイン〉〜9番目の奇妙な人形〜』の元となる短編アニメです。

■9 By Shane Acker


ただ作品自体は先ほど名前を挙げた映像作家のようなマニアックでアーティスティックなものというわけではなく、アメリカの商業CGアニメらしいエンターティメントとして完成しています。その分マイルドで誰でも楽しめるような出来ですが、逆に突出したものやびっくりさせるものが無いということもできるんですね。また、お話自体も短編から長編に広げた為か結構ちぐはぐに感じたり説明不足な部分も多いように感じた。しかしこういったお話の弱さはヴィジュアルの面白さでカヴァーできてしまう部分もあるので、この映画ではそれほど致命的なものではないでしょう。

全体的にみるとヴィジュアル的には個性的でありアニメ作品としては及第点な作品ではあるけれども、作家性としては弱いといえるかもしれない。そしてもうひとつ思ったのは、ゲーム作品を見せられているようだな、ってことなんですよね。これは決して貶しているわけではなく、非現実的な世界の中での非現実的なキャラの冒険、そしてよくこなれたCGの動きがそう思わせるんですよ(あとキャラがゲーム「リトル・ビッグ・プラネット」のキャラと似ているということもあるが…)。オレなんか映画を観ている最中、主人公をついついコントローラーで操作したくなったぐらいです。だからこの監督は意外とそっち方面でもっと才能を開花させるような気がしました。

■9〈ナイン〉〜9番目の奇妙な人形〜 予告編