ゼビウスで泣いた〜『大東京トイボックス』第5巻

大東京トイボックス(5) / うめ

大東京トイボックス(5) (バーズコミックス)

大東京トイボックス(5) (バーズコミックス)

ゲーム業界で生きる人々を描く『大東京トイボックス』第5巻。もちろんフィクションとしての装飾は多々あるのだろうが、業界の裏事情やパワーゲームの様子が垣間見える下世話なリアリズムが面白い。しかし本当の面白さはゲーム製作に賭ける主人公・太陽の熱い情熱の有様にある。熱血型のある意味古臭くベタなキャラを持つ主人公ではあるけれど、踏みしだかれ踏みしだかれ血反吐を吐きながらも最後の一発逆転を狙うそのキャラは、やはりこういったドラマには欠かせないだろう。現実にこういう人間がいたら企業の厄介者になるかもしれないが、ゲーム業界のようなクリエティヴな業種なら案外実際にこういう人がいたりするのかな。
それにしても今回の第5巻で最も胸を熱くさせたのは、社内でも社外でも四面楚歌となりすっかり煮詰まった主人公が、"自分にとってゲームとはなんなのか"をもう一度考える為にふらりとゲーセンに立ち寄り、ゲーム黎明期の名作ゲーム『ゼビウス』のカンストを狙うシーンである。そしてこのシーンが、なんと泣けるのだ!徹底的な集中力と反射神経を要求されるシューティング・ゲームをプレイしながら、主人公の精神は、次第に自らの裡へと没入してゆき、そこで自分自身との対話が始まるのだ。ゲームが自己を語るアイテムの一つとなる時代になってきていることを感じさせる1シーンだった。