駒ケ岳に登ってきた (その2)

■いよいよ駒ケ岳千畳敷

なんでも駒ケ岳千畳敷まで登る《駒ケ岳ロープウェイ》は紅葉の季節などは相当混むらしく、時間によっては4時間5時間待ちもあり得るというのだ。当然降りる時もそのぐらい待つことになってしまう。それでは大変だ、ということでロープウェイの始発に間に合うよう朝一番で出ちゃうことにしたのである。それにはまず宿泊地のある駒ヶ根から《駒ケ岳ロープウェイ》の出る《しらび平駅》まで定期バスに乗らねばならない。これの臨時便始発が午前5時5分。《しらび平駅》までの山道は自然保護の名目で専用バス以外の一般車は進入禁止になっているので、始発のバスに間に合えば間違いなく待ち時間無くロープウェイに乗れるはず。
という訳で4時半起床、ペンションを5時前に出発。空はまだ真っ暗だったが、昨日の夜も思ったけれど星がやたら沢山見える。勿論空気が綺麗で街の明かりが無いからなんだろうけれども、こんなに沢山の星を見たのは数十年振りぐらいかもしれない。
そしてバス停に一番乗り。観光案内のHPで見るとロープウェイ行き専用バスは駒ヶ根駅と駒ヶ根バスセンターからしか出ていないような風に書いているけれど、実は宿泊先前の駒ケ池停留所からも出ているのだ。朝一とはいえ駒ヶ根バスセンターは既に結構並んでいるから、そこより手前の駒ケ池停留所で乗るとその並びさえすっ飛ばせる。これはペンション主人のおばちゃんから聞いた情報だったのだけれど確かにドンピシャ、5時5分に現れた始発のバスはガラガラでオレ等が一番乗り、さらに出口の先頭に席を取り到着したら真っ先に降りられるように準備する。
さてここからロープウェイの出る《しらび平駅》まで約35分。車一台分の道幅しかない山道をグネグネとヘアピンカーブの連続で登ってゆく。ここで不思議だったのが一般車両通行禁止の筈なのにタクシーがたまに通るんだよな。帰りの道でも結構タクシーを見た。認可がどうなっているのかは知らないけど、これも観光案内には載ってないことなので参考までに。すれ違う時には道のあちこちに作ってある車寄せの場所に車を止めてどちらかが通り過ぎるのを待つ。山肌に作られた山道は片側が切り立っているからかなりスリリングなバス登頂だ。
5時半頃《しらび平駅》に到着、勿論待ち時間無しにロープウェイに乗車、ここからロープウェイで《千畳敷駅》へ。このロープウェイは定員61人、標高1,661.5mのしらび平から標高2,611.5mの千畳敷までの高低差950.0m、斜頚長2334.47mを運転所要時間7分30秒、秒速7mで一気登っていく、あれこれと日本一なロープウェイだということだ*1

そして午前6時前に念願の駒ケ岳千畳敷に到着!朝日に照らされた圧倒的な異様さでそびえる中央アルプス剣岳(標高2,931m)を見上げると、出る言葉は「スゲエ!」ばかりの失語症状態なオレ!この日は雲ひとつ無い晴天で、なにしろ空がひたすら青い!宇宙が透けて見えそうなぐらい!そして日差しの角度と空気の清浄さのせいで全てものがあまりにもくっきり見える!山の凸凹のコントラストのくどいまでの鮮やかさはなんだかひどく超現実的で、その光景はもはやここが地球じゃないどこか他の惑星にいるみたいだ!オレはなぜか映画『猿の惑星』オリジナル版の冒頭、宇宙船の墜落した荒野の映像を思い出したぞ!SF好きは千畳敷に行ってみろ!


さて《千畳敷カール》を散策することにする。《カール》というのは氷河期の氷で削り取られた御椀のようになった土地のことらしく、ここが周遊約40分、ちょっとしたアップダウンはあるものの簡単なハイキングコースになっているのだ。しかし"簡単な"とはいえ標高2600m、相方さんは「空気が薄いよお〜〜」とゼーゼー言いながら歩いていた…。


「それにしてもさあ」と疲れに顔を曇らせながら相方さん、「私たち本とか漫画とか映画とかばっかりの限りなくインドアで出不精のヒキコモリ体質でしょ?それなのに今まで逗子とか横須賀とかちょっと遠出するとなーんでいつも山に登っちゃうわけ?そしてなーんでいきなり一足飛びにこんな難易度の高い山に来ちゃうわけ?」「う〜む。オレにもよくわかんね。それよりもホラ、岩だ!草だ!川だ!」相方さんの苦悩をよそにすっかり浮かれているオレである。「うーうー!なんでなんだあ〜〜!」相方さんの叫びは標高2600mの空に虚しく消えていったのだった…。



「ひゃっほうっ!」(相変わらずただひたすら能天気なオレ)

(つづく)