タンジェリン・ドリーム、マーマレード・スカイ。


タンジェリン・ドリームというシンセサイザー音をムォーンムォーンと鳴り響かせるジャーマン・プログレ・バンドがいましてな。いや、今でもいるんですが、なにしろオレがロック聴き始めの頃、「このバンド、いったいなんなんだ…」という多大な好奇心を抱かせたバンドだったんですな。
あれは1970年代の中頃でしょうか。当時のオレはロック・ミュージックよりも冨田勲シンセサイザー・ミュージックを先に聴いていたガキだったんです。なんかこう、ギターやドラムの音よりシンセサイザーの電子音のほうが来るものがあったんですよ。

惑星

惑星

その後ロックも聴くようになりましたが、スリー・コードのロックン・ロールよりも、なんだか意味深で小難しげで偉そうな、イエスピンク・フロイドあたりのプログレッシヴ・ロックを好んで聴いていたんですよ。なんかこう、アートだ!アバンギャルドだ!幻想だ!というのに弱かったんでしょうな。ガキの頃ってそういうのにかぶれやすくありません?それと、普通のロックよりもプログレのほうが賢そうに見えたんですよ。だからプログレ聴きながら、キッスとかディープ・パープルとかクイーン聴いている友人には「勝った」とか思ってたんですな。イヤなガキですな。実はキッスもクイーンもこっそり聴いてたけどね!
Kiss

Kiss

で、そんな偉そうで小難しげなものに弱いオレが興味を示したのが、このタンジェリン・ドリームだった訳です。もとよりシンセサイザー・ミュージックに興味がありましたから、これはきっと何かあるぞ、と。で、あれこれレコード店で選んで、彼らの最高傑作とか言われていた『フェードラ』のLPレコードを買ってみたんですね。
PHAEDRA

PHAEDRA

さて、早速家で聴いてみたんですが、これが、さっぱり意味が分からない。幻想的っちゃあ幻想的なんですが、単に掴み所の無い訳の分からないシンセ音が「もにょーんもにょーんぷくぷくぷく」とか鳴ってるだけなんです。
そして長いんです。17分とか意味不明の音を聴いていられないんです。でも「これにはきっと深い意味とか深い感性とかなんかそーゆーものが込められているんだ」と一所懸命思い込んで、スピーカーの真ん中に正座して聴くんです。でも飽きるんです。つまんないんです。でも「聴き続ければ意味が分かってくる」とまたまた思い込んで我慢して聴いてましたね。全く何やってたんでしょうね。丁度同じ頃にデビッド・ボウイのアルバム『ロウ』が発売されて、これも激しくシンセサイザーがフィーチャーされたアルバムだったんですが、こっちのほうがまだ聴けましたな。
そういった訳でオレのタンジェリン・ドリーム初体験は「やっぱつまんねえ!」という結論を出して終りになりましたが、あれから30年程経った今、何故か突然またタンジェリン・ドリームを聴きたくなってしまったんですよ。懲りないですなあ。
また聴きたくなった、というのはこの間マニュエル・ゲッチングのアルバム聴いて、あの時代のジャーマン・プログレってヤツをもう一度聴いてみたくなったからなんですわ。で、LPで聴いていた『フェードラ』と、あの頃買おうかどうか迷ったまま結局買わなかった『Stratosfear』(日本リリースされた時は「浪漫」とかいうタイトルでしたな。コーコーセーの分際で「浪漫」はやっぱマズイような気がしますな)を買ってみたわけです。
Stratosfear

Stratosfear

そうするとこれが結構面白い。特に『フェードラ』がなかなかいい。コーコーセーの頃はチンプンカンプンでしたが、ブライアン・イーノ環境音楽やジ・オーブのアンビエント・ミュージックを潜り抜けてきた今の自分の耳には「こういうのもアリだな」というのが分かるんです。あと、あの頃長く感じていた収録時間がそれほど長く感じない。これもロング・プレイの音源を散々聴いてきたからなのかもしれません。
Apollo: Atmosphere & Soundtracks (Dig)

Apollo: Atmosphere & Soundtracks (Dig)

Orb's Adventures Beyond the Ultraworld (Dlx)

Orb's Adventures Beyond the Ultraworld (Dlx)

つまりこの出来の悪いアンビエント・ミュージックの如きダラダラした文章で何が言いたかったかというと、昔聴いた時は意味不明だった音楽を30年振りに聴いたら面白く聴けたという話な訳ですな。昔面白かった音楽が数十年後に聴いたら陳腐になってたなんてぇことはよくありますが、これは逆のパターンなんですよ。そもそもジャーマン・プログレ自体が先鋭的なことをやってたんだということもあるんでしょう。つくづくジャーマン・プログレはスゲエなあ、と思いましたよ。ま、かといってこれからもいっぱい聴こう、という気は実は無いのだが!