空の巻き貝 / 逆柱いみり

空の巻き貝

空の巻き貝

つげ義春の詩情と白日夢。杉浦茂の奇天烈とオモチャ感覚。稲垣足穂のファンタジーと少年愛。そして昭和を感じさせるほの暗い郷愁と高度経済成長の残滓。そこに円谷怪獣の実物大ソフビ人形を闊歩させた世界で、フリチンの少年二人があてどのない冒険の旅に出る。それがこの"ガロ系漫画家"逆柱いみりの漫画、『空の巻き貝』である。物語らしい物語は無い。両親から放置された少年が家を逃走し、巨大な空飛ぶ巻き貝に捕まった後、巻き貝の中で出会ったもう一人の少年と、夢の中の光景のような不思議な世界を覗いてまわるのだ。
そしてその世界は田舎の土産物のようなレトロでチープな悪趣味に満ち、謎のガジェットと謎の生物と謎の人物たちとで溢れ返り、シュールな事件と不条理な展開が進行してゆく。その間主人公の少年たちは何故かハイソックスにブリーフという出で立ちで歩き回り、おまけに後半はずっとフリチンなのだ。だいたい表紙からして少年二人がポコチン丸出しである。
言ってみれば子供たちの妄想と悪夢とが描かれているといった作品なのだが、その世界はあたかも子宮の中のようにねっとりと湿って暗く暖かい。仏教寺には施設を菩薩の胎内にみたててそこを拝観者に巡らせるという「胎内めぐり」というものがあるそうだが、この漫画は作者逆柱いみりの妄想を探検するひとつの胎内めぐりのお話なのかもしれない。