"困った女"って言ってる男はたいがい"困った男"だった!?〜映画『ライラにお手あげ』

■ライラにお手あげ (監督:ピーター・ファレリー/ボビー・ファレリー 2008年アメリカ映画)


トロピック・サンダー/史上最低の作戦』のベン・スティラー主演、『メリーに首ったけ』のファレリー兄弟監督による男の婚活コメディ。

主人公はしがない40男エディ(ベン・スティラー)。5年も付き合った彼女からフラれ、その彼女の結婚式招待に応じてノコノコ出掛けて自分で自分の傷口を大きくして帰ってくるというお人よし野郎である。「ああ、結婚したい…」そんなエディとひょんなことから知り合ったライラ(マリン・アッカーマン)にエディは一目惚れ、この機を逃すまじと短期間で結婚にこぎ着ける。しかし、ハネムーンに出掛けたエディは、ライラがとんでもない女であることを知る。「オ、俺って早まっちゃったのか!?」苦悩するエディだったが、ハネムーン先で知り合った一人の女性アマンダ(ミシェル・モナハン)に、エディは心慰められてゆく。「ううん…こっちの女の子の方が素敵じゃないか…」揺れに揺れるエディの心、さて、エディとライラ、アマンダの未来はいかに?というお話である。

結婚に焦って相手のこともよく知らないままゴールインしてしまった男の悲喜劇を描いた映画である。「成田離婚」なんてェ言葉が昔あったように、「新婚旅行してみたら相手に幻滅した!」というのは有り得る事なんだろうが、いくら結婚した相手がとんでもない女だからといって、ハネムーン先で早速別の女を口説き始めるというのも随分大胆なエディさんである。結婚願望という抑圧から解放され、やっと本来の自分を取り戻してリラックスしてみたら、以前よりもずっと自然に女を口説けるようになった、ということであろうか。奥手*1のように見えて実はなかなかイケイケなエディさんである。これが人としてどうか?ということは置いといて(ま、置いちゃいけないんだろうけどさ)、もしも今の女を捨てて次の女に走りたい!走りたいったら走らせて!というのなら、相手の女の連絡先聞いといて、ハネムーンが終わった後こっそり会うという手もあるだろうに、今の女房の目の前で別の女に突っ走るとは、単に戦略性のないマヌケであると言われてもしょうがない。ま、だからこそコメディなんだけどね!

しかし"とんでもない女"として描かれるライラだが、人の道にもとるサイテー女というわけでもなんでもなく、ちょっとウザイことは確かだろうけれども、言ってみれば好みというか相性の問題でしかなく、実のところそれほど"とんでもない女"でもないのである。しかもウザイなりに結婚したばかりのエディにぞっこんであり、なかなか可愛いところを見せたりして、それでエディが優柔不断になってしまう部分もあるのだが、コメディ映画として見せるならやはり同情も感情移入もできないアホアホ女として描いたほうがまだすっきりしたのではないだろうか。エディ・マーフィーの恐妻映画『マッド・ファット・ワイフ』の奥さんなんて、単なるバケモンだったもんなあ。だからこの描き方だと逆にエディのほうが人の道にもとり同情できない男になってしまい、こんな男が「なんて困った女だ!」とわめいて見せても、あんたのほうが困った男じゃないかよ!と思えてしまうのだ。

そういった部分で、いわゆるラブ・コメディとして観ようとすると、エディのあまりにもな自分勝手さに楽しめないのだが、ベン・スティラーのコメディアンぶりを楽しもうとするならそれなりに見所がある。特に後半、ライラにもアマンダにも愛想を付かされ、ハネムーン先のメキシコにパスポート無しで置き去りにされたエディが、不法移民と一緒にアメリカに密入国しようとするくだりはあまりにもナンセンスで爆笑した。言ってみればこのナンセンスさが足りないばかりにどうにも煮え切らない映画として仕上がったとも考えられ、ファレリー兄弟の神通力ももう枯れ果てたかな、という感想である。メキシコでエディとアマンダが再び巡り合うラストの苦い皮肉はいい。

■The Heartbreak Kid Trailer


*1:全然関係ないんですけど"奥手"って"晩生"とか"晩稲"って漢字もあるんですね