グランダンの怪奇事件簿 / シーバリー・クイン

グランダンの怪奇事件簿 (ダーク・ファンタジー・コレクション)

グランダンの怪奇事件簿 (ダーク・ファンタジー・コレクション)

論創社ダーク・ファンタジー・コレクション》第4巻はオカルト探偵ジュール・ド・グランダンが活躍するホラー・シリーズ。もともとはかの怪奇小説専門誌ウィアード・テールズに連載されていたものだということだが、1925年から延べ27年間、93編もの作品が書かれたというウィアード・テールズ誌史上最大最長の人気シリーズだったらしい。
物語は古今東西のオカルトに造詣の深いフランス人犯罪研究者ジュール・ド・グランダンが探偵となり、アメリカ人医師トロウブリッジの協力を得ながら不気味で不可解なオカルト事件を解決してゆくというもの。いわばオカルト版・シャーロック・ホームズといったところか。しかし探偵物と言っても推理やトリックが描かれるわけではなく、むしろ超常現象の恐怖をクローズアップさせた内容となっている。
やはりジュール・ド・グランダンのキャラの妙がこの短編集の要だろう。アメリカに渡ってきたフランス人という設定なのだが、会話の途中言葉の端々にフランス語が混ざってしまうという所が、微妙にイヤミな雰囲気を醸しだして可笑しい。性格も優雅であると同時にプライドが高く皮肉屋、激すると高圧的になり、冷淡かと思えば人情に篤かったりする。やはりフランス人だけあってラテン系の血が騒ぐ男なのであろう。あまり近くにいて欲しくない性格ではあるが。
そんなジュール・ド・グランダンが挑むオカルト事件は、記念すべき第1作が不気味な猿人化現象を追った「ゴルフリングの恐怖」、続いて、手首だけが漂い歩き窃盗を繰り返す「死人の手」。この辺は展開がまだシンプル過ぎるのとテーマが古臭いのでイマイチ。「ウバスティの子どもたち」古代エジプトの時代から歴史の裏で生き続ける猫人間達を描くが、獣人化現象というテーマが1作目と被るので新鮮味に欠ける。
死してなお非道な謀略を働く父の亡霊に引き裂かれる男女を描く「ウォーターバーグ・タンタヴァルの悪戯」あたりから、作者のストーリーテリングがこなれてきて面白くなってくる。「死体を操る者」は謎の連続殺人を追うグランダンの前に現れたゾンビたちの恐怖。ポルターガイストは不気味なポルターガイストに悩まされる少女を調査するグランダンが突き止めた密かな怨念の物語。
「サン・ボノの狼」では戯れにはじめた降霊会が呼び出した恐るべき悪霊を退治するべく奮戦するグランダンが頼もしい。「眠れぬ魂」も傑作。ヴァンパイア・ストーリーと死を賭して愛を繋ぎとめようする男女とを絡めた悲劇的な物語が展開する。
「銀の伯爵夫人」も謎めいていていい。夜な夜な血を求める呪われた女形の彫像の謎をグラダタンが解明する。ラスト「フィップス家の悲劇」は最も読み応えがあった。"第一子が生まれる直前になるとその父親は血を吐いて死ぬ"という呪われた家系を調査するグランダンは、その陰にカトリックプロテスタント迫害の歴史が隠されていたことを突き止める。果たしてグランダンは数世代を経て続く呪いの輪を断ち切ることが出来るのか?