漆黒の霊魂/オーガスト・ダーレス編

漆黒の霊魂 (ダーク・ファンタジー・コレクション)

漆黒の霊魂 (ダーク・ファンタジー・コレクション)


オーガスト・ダーレスといえばラブクラフト作品を世に知らしめた編集者であり作家であるというイメージが強いが、この短編集「漆黒の魂」はクトゥルー神話以外の作品も含むホラー・アンソロジーである。原本は1962年にダーレスによって編纂された書き下ろし(未発表遺稿含む)ホラー・アンソロジー「Dirk Mind,Dirk Heart」で、これを日本で何作か差し替え本邦初訳の作品ばかりで再編集したらしい。「論創社ダーク・ファンタジー・コレクション 」第5巻。
ホラーと言っても60年代初頭のものだから、幽霊や怪異、魔女や魔法といったものが主題となり、現代風のどぎつさではなく"不気味な雰囲気"で盛り上げる、言うなれば怪談風の作風のものが多い。
作品はロバート・ブロックやウィリアム・ホープ・ホジスン、ロバート・E・ハワードら有名作家のものもあるが、殆どは日本であまり紹介されていない作家ばかりで、小品ではあるもののこれら"埋もれた作家"の作品を楽しむといった面白さもある。
出色だったのはホジスンの海洋ホラー「ミドル小島に棲むものは」。無人島に座礁した船を巡る奇怪な現象を描いたこの物語は、21世紀の今読んでも「前人未到の地で起こる怪異」が恐怖の対象となりえるものなのだな、と思った。
そしてロバート・E・ハワードヒロイック・ファンタジー短篇「灰色の神が通る」。"蛮人コナン"シリーズで有名なこの作家の作品は実は初めて読んだのだが、"ヒロイック・ファンタジー"というものがこんなに面白いものだとは思わなかった。超自然的な要素はあるが、基本的には剣や槍や鈍器を携えたマッチョで血に飢えた蛮人達が肉をぶつけ骨を軋ませ大群となって殺しあう、というだけのお話で、単純ながらもそのアドレナリン分泌率の高さは凄まじいものがある。"蛮人コナン"シリーズをちょっと読んでみたくなった。
逆にラブクラフトの遺稿にダーレスが手を入れたクトゥルーもの「魔女の谷」はイマイチ。常々思っていたのだがクトゥルーものってその独特で歪な世界観からウケる要素も多かったんだろうが、大半は古臭いか凡作ばかりなんじゃないのかなあ。