新生ボンド2作目は復讐の物語だった!〜映画『007/慰めの報酬』

007/慰めの報酬 (監督:マーク・フォースター 2008年アメリカ・イギリス映画)


新生ボンド、ダニエル・クレイグによる『007/カジノ・ロワイヤル』に続くボンド・シリーズ第22弾である。今作はなんと、前作の『カジノ・ロワイヤル』から1時間後のストーリーを引き継いでいるのらしい。

前作といえば2年前劇場で観たっきり、確かカジノで悪モンの金巻き上げてやったねボンド!と終わるのかと思ったら、その後あれこれあり、金は奪われちゃうし、悪モンは借金取りに殺されちゃうし、惚れてた女には裏切られた挙句死なれちゃうし、ボロボロにされたボンドが本当の黒幕の仲間らしいヤツを狙撃しておしまい、という映画だったが、唐突に表れた"ホントの黒幕"の登場に戸惑って「え?オレなんかどっかの画面見忘れてた?映画の理解力足りない?」とキョトンとしてしまった覚えがある。今回実はこの『慰め〜』を観る前にDVDでも一回『カジノ』を観返したんだが、やっぱり同じ場面でキョトンとしてしまった。

で、今回の『慰め〜』はその続きということらしいが、なにしろ死んだカノジョの復讐に燃え"ホントの黒幕"を追い詰めていく、というストーリーになっている。要するに続編、というか『カジノ』の後編、ということになってしまう訳だが、なんかこの「実は続きがありました」という作りがまず好きじゃないんだよなあ。世の中にはまだまだ得体の知れない巨大な悪というのが存在していて、そしてボンドは過酷な運命から非情な任務をこなす男になった…ということにして、新たな物語を語ればいいじゃん。復讐という私怨自体ボンドっぽくないし、新生ボンドの誕生というのをわざわざ2作でやることなかったんじゃないかなあ。

映画自体は単独でも楽しめるようになってるけど、やっぱり前作観てないとラストの意味がよく分からないような気がするし、そしてあのラストこそが悲痛な過去と決別し非情にならざるを得なかったボンドの姿の完成形だとすれば、随分長いプロローグだったわけねえ…などと思えてしまう。これまでのボンドと雰囲気の違うダニエル・クレイグというアクターの力量や魅力は、前作で十分007ファンに伝わったわけだし、新しいボンドの姿として誰もが受け入れたはずなんだから、この「ボンド誕生」の再話はくどかったんじゃないかな。

やっぱりねえ、これ、監督のマーク・フォースターの生真面目な人間ドラマへの拘り方が邪魔したんじゃないかと思うのよ。オレこの人の『チョコレート』って全然好きじゃなかったし、『ネバーランド』は良かったけどテーマから考えたらもっと話広げられたんじゃないかなあと思うし、逆にコメディの『主人公は僕だった』は好きだったんで、こっちにいったほうがよかったんじゃないかなあ。でも監督前作の『君のためなら千回でも』もまたまた生真面目そうな人間ドラマっぽかったんでこれは未見だけどね。

ただアクションは頑張ってるのよ。「頑張ってますよ!」という熱い主張が聞こえてくるほど頑張ってるの。しかしこの『慰め〜』のセカンド・ユニット監督でありスタント・コーディネーターって、ダン・ブラッドリーという人なの。この人、『ボーン・スプレマシー』『ボーン・アルティメイタム』『スパイダーマン2』『同3』『インディー・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』のスタント・コーディネーターを務めた人らしいんだよね。もうこうして作品並べてみるとそうそうたるもんだよね!特にボーン・シリーズのアクション・シーンのキレの良さは確かにメッチャ凄かった。しかし逆に言うとさあ、この『慰め〜』って、殆どこの人でもっちゃった映画って言うことも出来るじゃん?

そういった意味では、いくらタイトでクールになった新生ボンドとはいえ、ハッタリが薄くて客にウケてみたい!っていう「スケベ心」の足りないボンド映画になっちゃったんじゃないかなあ。悪モン役のマチュー・アマルリックは『潜水服は蝶の夢を見る』の主演務めてた人だけど、この『慰め〜』ではいかにも酷薄そうなヨーロッパ人といった風情で出てきて、なかなか悪モンの貫禄があったと思いました。

■007慰めの報酬 予告編