ダイアリー・オブ・ザ・デッド (監督:ジョージ・A・ロメロ 2007年アメリカ映画)

■帝王降臨

ゾンビ映画の帝王、ジョージ・A・ロメロ監督期待の新作『ダイアリー・オブ・ザ・デッド』である。ゾンビ3部作の第1作である『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』が1968年の製作だから、ゾンビゾンビでほぼ40年続いているシリーズというのも凄い。現在ロメロは『ダイアリー・オブ・ザ・デッド』に続く新作ゾンビ映画の製作に取り掛かっているというから、ゾンビ映画以外のものも撮ってはいるが、やはり生涯一ゾンビ、ゾンビバカ一代監督と呼んでも差し支えないだろう。

今回の作品で最も話題になっているのは、『クローバー・フィールド』『●REC/レック』ですっかりお馴染みになったP.O.V.(主観映像)による撮影方法だろう。主人公たちは映画学校の学生であり、自らが直面した異様な事態を記録し、それを公表するべきだという使命感に燃え、撮影機器抱えて逃げ回るのである。生きるか死ぬかの瀬戸際だというのに「カメラ充電しなきゃ!」とかオタオタしてみたり「YouTubeでこんなにHITしたよ!」とか喜んでみたり、挙句の果てに仲間がゾンビに襲われているのに助けもしないで撮影しているという体たらくで、観ていて多少イラッとくることは否めない。

■ロメロ映画のテーマ性

これをして"メディア社会のうんたらかんたら"とか"撮影する側に回ることで現実感が喪失するなんちゃらかんちゃら"というテーマだと捉えられている様だが、実際の所ロメロにとっては、今回P.O.V.の手法で撮影する、というコンセプトが先にあって、こんなテーマは後付けされただけなんではないだろうか。だからこのテーマ自体をあまり重要視する必要はないように思える。

ロメロの作品というのは、社会批判、文明批判がそのテーマとしてあるような評価のされ方をしているが、確かにそういう批評性のある映画ではあるにせよ、そんなことより取りあえず"エキサイティングでスリリングで、そして面白いホラー映画"を撮りたかっただけなんじゃないだろうか。ロメロ作品の○○批判と捉えられているものは、むしろ単純に皮肉やブラック・ジョークと受け止めればいいんじゃないのかと思う。

■原点回帰

それではP.O.V.で撮られた今作『ダイアリー・オブ・ザ・デッド』でロメロが何をしたかったかというと、これは素直に原点回帰なのだろう。前作『ランド・オブ・ザ・デッド』は結構な予算のもとに製作され、完成度も面白さも十分なものだったが、ロメロ自身はこういった大作に居心地が悪かったのらしい。そして1作目である『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』のような軽いフットワークで製作しようと試みられたのがこの『ダイアリー・オブ・ザ・デッド』ということなんだろう。

ロメロはハリウッド的なプロダクション・ワークの中で長く冷や飯を食わされてきた時代があり、それは非ゾンビホラー『TATARI』で描かれていたりするのだが、ここ数年のロメロ再評価とリメイク作品の好評により、ようやく伸び伸びと映画が撮れる環境が整ってきたのだろう。その中で再び自らの作家性を振り返るという意味での"原点回帰"なのではないか。それは『ダイアリー・オブ・ザ・デッド』に続く新作の製作発表が意外と早く行われたことからもうかがえるような気がする。

ダイアリー・オブ・ザ・デッド

映画として観るなら、今作『ダイアリー・オブ・ザ・デッド』はまさにロメロらしいゾンビ映画のあり方を見せた作品であると同時に、そのブチ殺し方やブチ殺され方にこれまでのゾンビ映画にはない新機軸が盛り込まれ、ファンなら陶然とした時間を過ごすことのできる素晴らしい作品に仕上がっている。

P.O.V.手法の導入はストーリーそのものと係わっている為、ストーリーそのものが面白ければこれは成功である、という言い方も出来るが、実はP.O.V.を持ち込まなくても、この映画はロメロ作品として完結していたように思う。今作『ダイアリー・オブ・ザ・デッド』にははっきり言って物語らしい物語も起承転結すらも殆ど無いといっていい。ここで描かれるのは地上に現れた地獄の只中でただ右往左往する人間達の阿鼻叫喚の有様だけである。

キリスト教圏に於いて死者の蘇りが祝福に満ちた千年王国の予兆なのではなく、地獄が地上に再現されるだけのものなのだとしたら、これこそ大いなる皮肉に他ならない。即ちロメロの描くゾンビ映画とは、救済などどこにも存在しない地獄の諸相なのであり、いかに地獄のありさまを鮮やかに描くかにその手腕は発揮されるのだ。めくるめく地獄の様相を次々と提示するロメロのゾンビ・ホラー。やはり帝王のホラーは、一味違う。

■『ダイアリー・オブ・ザ・デッド』の前売券購入特典『ゾンビ軍手』

…何故軍手なのか未だに判らない…。

■Diary of the Dead - Official Trailer


■Diary of the Dead ポスター集