イーグル・アイ (監督:D・J・カルーソー 2008年アメリカ映画)

■真説『イーグル・アイ』

ある日の休日、カーテンを閉め切ったむさくるしい部屋に篭って、いつものようにネットのバカ記事やエロ記事をエシェラエシェラと笑いながら読んでいた時だ。ケータイがメール受信の電子音を鳴らし、またエロ広告かと思って画面を覗くと「フモよ。左を見ろ」の文字が。なんだこりゃ、オレの名前までがエロ広告に洩れてんのか?と思いながら、無意識に左を見る。
するとそこにあったAVアンプのデジタル・ディスプレイがいつの間にか点き、英文が流れている。それは「LOOK AT THE BACK」と読めた。後を見ろって?なんだ?AVアンプにそんな文章の表示機能なんかあったっけ?と思いながら今度は恐々後を見る。
後はベッドだ。見るとベッドの上のデジタル時計の画面が瞬いているではないか。それは「L・O・O・K L・E・F・T」と読めた。今度は左かよ。勿論時計が文字を表示させる事なんて有り得ない。一体何が起こってるんだ?
左側は台所だ。電子レンジとオーブントースターと電子ジャーのディスプレイがチカチカと目まぐるしく表示を変えている。それらのキッチン家電の電子表示が代わる代わる表示する文字を組み合わせると、それはこう読めた。「マ・エ・オ・ミ・ロ」。前を見ろ。
オレの前にはさっきまで眺めていたパソコンのディスプレイがあった。結局オレはぐるっと首を回したわけだ。その時、異様なビープ音がパソコン本体から響き、オレは飛び上がった。そしてパソコン・ディスプレイがブルーバックのエラー画面へと転調した。
しかしディスプレイに表示された文字はエラー表示ではなく、次のような文字だった。「ナンドモクリカエセ」。
何度も繰り返せ?何なんだいったい!?だが、見えない手で操られているこの異様な状況にすっかり呑まれてしまったオレは、最初と同じように、右を、後ろを、左を、前を、頭をグルグル回しながら何度も繰り返した。繰り返しながら、この状況の最後に何が待っているのか、得体の知れない不安にとらわれはじめていた。
突然、ケータイが鳴った。今度は音声着信だった。相手先不明。オレはキーを押すと、引きつった声で相手に怒鳴った。「なんだ!?何が目的だ!?お前は一体誰なんだ!?」
ケータイのスピーカーの向こうから機械仕掛けの女の声がした。「私の名はイーグル・アイ。フモよ。君は毎日パソコンばかりやりすぎる、たまには今のように頭をぐるぐる回して、肩の凝りをほぐすのだ」
そして来たときと同じように、電話の声は唐突に途絶えた。
肩の凝りをほぐせって…。イーグル・アイ、誰だか知らないが…お前いいヤツなのかッ!?

■鵜の目鷹の目イーグル・アイ

まあ、ぶっちゃけて言えばビッグ・ブラザーでありHAL9000であり、ウォー・ゲームでありエネミー・オブ・アメリカでありスカイネットなわけなんである。これらのキーワードでもう殆ど物語りは説明したようなもんだしネタバレまでしまくっているわけで、なーんだ同工異曲の焼き直しかよと言ってしまえばそれまでだが、あれらの物語と違うところがあるとすればテクノロジーがより具体的で現実的な部分まで近付いているということなんだろう。この物語のようなあらゆる蓋然性を計算し結果を算出する人工知能量子コンピューターの登場を待つしかないだろうが、それとても決して不可能というわけではない。
サービュランスが張り巡らされ電子的に人相特定の可能になった監視社会は既に現実のものだし、S・スピルバーグの『マイノリティ・リポート』に登場した予知能力者集団《プリコグ》の能力が演算によって可能になり、時計仕掛けのラプラスの悪魔が世界の動きを決定論的に先読みする未来、というのもホラーじみた空想としては面白い。
この映画の面白さはそういった"黒幕"の真の目的に辿り着くまで、訳も分からず右へ左へ上へ下へと引き摺り回され、血相変えてボロボロになりながら右往左往する主人公達のアクションであり、これらが単なるゲームボードの上の駒でしかないように扱われているといった恐怖だろう。この"黒幕"の目的自体は分かってしまうと人によってはありがちで鼻白むかもしれないが、いわゆるハイテクホラーの一つとして最後まで楽しめる出来になっていると思う。

イーグル・アイ 予告編