オレ的作家別ベスト5・第1回 ベスト・オブ・カート・ヴォネガット!

■『作家別ベスト3を考える』→『ベスト5』ということにする

厘時さんの所でやってた『作家別ベスト3を考える』をオレもやってみたいと思います。ルールは:

・作家を決める。
・その作家の既読の本のタイトルを思い出せる限りすべて思い出す。
・その中から好きなものベスト3を選ぶ。
上下巻や上中下巻は1冊扱い。
シリーズ物は臨機応変に判断。
最低でも既読は7冊は欲しいところ(選んだ数より選ばない数の方が多くないと面白みに欠ける)。

ということですが、オレの方は「作家の著作を全部抜き出す」「ベスト5」ということでやってみることにしました。
選んだ作家はカート・ヴォネガットスティーヴン・キング、P・K・ディックの3人。これを3日に分けてやってみたいと思います。それではまず今日はカート・ヴォネガットから!

カート・ヴォネガット・ベスト5!

昨年4月に惜しまれながら世を去ったカート・ヴォネガット。なにしろ殆ど読んでいるんですが、処女作の『プレイヤー・ピアノ』は未だ未読です。なんかこれ読んじゃうと、ヴォネガットの著作全部読んじゃうことになってしまいそうで、オレとしてはなんだか寂しいんですよ。最近出た『死よりも悪い運命』は今読んでいるところです!以下にWikipediaから抜粋した全著作リストを挙げてみます。この中で””が付いているのが未読のもの。


【長編】
プレイヤー・ピアノ(Player Piano 1952年)
タイタンの妖女(The Sirens of Titan 1959年)
母なる夜(Mother Night 1961年)
猫のゆりかご(Cat's Cradle 1963年)
ローズウォーターさん、あなたに神のお恵みを(God Bless You, Mr. Rosewater, or Pearls Before Swine 1965)
スローターハウス5(Slaughterhouse-Five, or The Children's Crusade 1969年)
チャンピオンたちの朝食(Breakfast of Champions, or Goodbye, Blue Monday 1973年)
スラップスティック(Slapstick, or Lonesome No More 1976年)
ジェイルバード(Jailbird 1979)
デッドアイディック(Deadeye Dick 1982年)
ガラパゴスの箱舟(Galápagos 1985年)
青ひげ(Bluebeard 1987年)
ホーカス・ポーカス(Hocus Pocus 1990年)
タイムクエイク(Timequake 1997年)


【短編集】
モンキーハウスへようこそ(Welcome to the Monkey House 1968年)
バゴンボの嗅ぎタバコ入れ(Bagombo Snuff Box 1999年)
追憶のハルマゲドン(Armageddon in Retrospect 2008年)


【エッセイなど】
ヴォネガット、大いに語る(Wampeters, Foma and Granfalloons 1974年)
パームサンデー(Palm Sunday, An Autobiographical Collage 1981年)
死よりも悪い運命(Fates Worse than Death 1991年) (今読んでる最中です!)
国のない男(A Man Without a Country 2005年)

《1位》チャンピオンたちの朝食

物語冒頭にヴォネガットの書いたイラストが踊る。「チャンピオンたちの朝食 ***または*** さようならブルー・マンデー!」。しかし物語りは決して”ハッピー”なものではない。物語は小さく区切られた文章とその間に挟まれた膨大なイラストで構成されている。それらは全て「それはこんなものだ」「それはこんな格好だ」と説明するが、物語に決して必要のあるものではないばかりか、その度に物語は停滞し、思考は停止する。即物性の前では思弁など無意味で無力であると言わんばかりに。溢れかえるモノの中で考えることを止めた者達が生きる文明。その中で自分が病んでいることにさえ気付かない人々。主人公キルゴア・トラウトはそんな茫漠とした虚無に支配されたアメリカ大陸を漂泊する。彼は旅路の果てに何を見るのか?ヴォネガットはまさに文学だったのだ、と強力な力技で気付かせてくれる一作。アメリカ文学の一つの到達点といっても言い過ぎではないかもしれない。読め。読みやがれ。

《2位》スローターハウス5

あまりに大きな絶望と悲嘆の前では、その絶望と悲嘆に向き合うことも、考えることすらも出来なくなってしまう。ドレスデン無差別爆撃という戦争史上に残る悲劇にまさに居合わせることになったヴォネガットは、その悲劇を描こうとしながらも、それを正面から描けない自らに苦悶したのだ。それが、UFOだのタイムスリップだの、一見安っぽいSF趣味で飾られた本作だった。しかし、本質から目をそらそうとすればするほど、そして本質の周縁をぐるぐる回り続ければ続けるほど、まるで陰画のように、その本質が、すなわち絶望と悲嘆の深さが浮き上がってしまう、という恐るべき構成で成り立っているのが本作なのである。物語は捻じれに捩じれ、捻じれることでしか語ることが出来ないという苦痛が読む者にきっと迫ってくることだろう。ヴォネガット傑作中の傑作。読め。読まずに死ねるか。

《3位》タイタンの妖女

日本ではヴォネガットの代名詞ともなっている作品だろう。この物語は一言で言うとこうなる。「全ては無意味だったのだ」。その無意味さを描き出す為に、ヴォネガットはあらんかぎりの情熱をもってこの物語を描き出す。それは、何故この世界は、無意味だ、と言い捨ててしまえるほどに、悲しい世界になってしまったのだろう、という、ヴォネガットの悲嘆と苦渋があったからなのだ。そして、「無意味だ」と言い捨てた後で、ヴォネガットは「ではそんな世界で我々はどう生きればいいのだろう?」と問いかける。世界には虚無と絶望しかないのだとしても、やはり僕らはこの世界で生き続けなければならない。だからせめて、僕は、君に、親切にしてあげようと思うんだ。愛は負けるかもしれない。でも、親切は、きっと勝つからだ。

《4位》母なる夜

母なる夜 (ハヤカワ文庫SF)

母なる夜 (ハヤカワ文庫SF)

第二次大戦中、ナチスドイツに協力しながらアメリカの二重スパイとして生きていた男の物語。ダブルスタンダードの生の中で自らの虚と実に引き裂かれ、しまいにどちらが虚なのか実なのかわからなくなってゆく男の苦悩と悲哀は、戦争の悲劇といった物語にとどまらず、神経症的な現代のこの社会で生きる者の生にも十分共通するものがあるのではないだろうか。ヴォネガット一流のアイロニアルな警句を織り交ぜながらも、SF的要素の無いストレートな語り口が、重く静かに読む者の心に迫ってくるだろう。

《5位》猫のゆりかご

水を融点摂氏45.8度の氷に変える物質アイスナイン、この物質により終末を迎えてしまう人類、そしてカリブ海の架空の島サン・ロレンゾに伝わる宗教・ボコノン教。ヴォネガット作品の中で最もSF的な展開を見せるこの作品は、世界の終わりという陰鬱で救いようの無い物語でありながら、ヴォネガット聖典ともいえる魅力的なボコノン教の教義を生み出し、一般に多く受け入られやすい要素を持っている作品だといえるだろう。「<フォーマ>(無害な非真実)を生きるよるべとしなさい。それはあなたを、 勇敢で、親切で、健康で、幸福な人間にする」

なおヴォネガットについては『オレとサイエンス・フィクション!(全5回・その5)ヴォネガットだった!』あたりでも詳しく書いているので興味のある方はこちらもドウゾ。