デイ・オブ・ザ・デッド (監督:スティーブ・マイナー 2008年アメリカ映画)

■ロメロ金字塔のリメイク

ジョージ・A・ロメロの《ゾンビ3部作》といえば『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』、『ゾンビ』、『死霊のえじき』であることはホラー映画ファンにとって常識であろう。この中では『ゾンビ』が最も評価が高い作品だという事が出来るだろうが、実はオレは隙が無く作られたサスペンス・ホラーである『ゾンビ』よりも、『死霊のえじき』のほうが案外好きだったりするのだ。『ゾンビ』は世界の終末を描いた映画でもあったが、『死霊のえじき』では、既に世界は滅び去っており、人類それ自体がからくも地下で生き残っている絶滅種として描かれていて、その寂寥感が圧倒的であったのだ。

今回紹介するこの『デイ・オブ・ザ・デッド』はジョージ・A・ロメロの『死霊のえじき』をリメイクした作品である。『死霊のえじき』自体原題がこの作品と同じ『DAY OF THE DEAD』でもあるのだ。《ゾンビ3部作》のリメイクといえば、『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』が特殊メイクアーチストのトム・サビーニによる『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド 死霊創世記』としてリメイクされているし、『ゾンビ』は後に『300(スリーハンドレッド)』で一躍脚光を浴びるザック・スナイダーの手により『ドーン・オブ・ザ・デッド』としてリメイクされている。

というわけでこの『デイ・オブ・ザ・デッド』、《ゾンビ3部作》の最後の作品のリメイクということが出来るだろう。監督を手掛けたスティーブ・マイナーはかつて『13日の金曜日』シリーズや『ガバリン』、『ハロウィンH20』、『U.M.A レイク・プラシッド』などのホラー作品を監督しており、ホラーなどお手のもの、といった感覚でこの作品を完成させたようだが、悪達者とでもいうのかホラー慣れしている分新鮮味に欠け、ロメロの金字塔ともいえるゾンビ作品を新たな解釈で蘇らせたという言い方は残念ながら出来ないようだ。

■力不足の演出

そもそも物語後半で主人公達が地下ミサイル基地に入り込み、そこでゾンビの群れと対決する場面以外は『死霊のえじき』とどう物語的に関係があるのかまるで分からない作品だ。人間の時の意識を持ったゾンビも出てくるが、どうにも付け足しのようにしか見えない。スティーブ・マイナーはインタビューの中で、ロメロが低予算だったため『死霊のえじき』で描くことが出来なかったシーンを再現したかった、と述べているが、実の所『死霊のえじき』で実現できなかったプロットはロメロ自身が《ゾンビ3部作》の後に製作した『ランド・オブ・ザ・デッド』の中で生かされており、これではなおさら監督の意図が不鮮明になってしまう。

ロメロ作品のリメイクということを無視しても、ホラー作品としてどうにもテンポが悪い。映画冒頭では廃屋の中でエロエロ行為にうつつを抜かすワカモノたち、というホラー映画常套句である死亡フラグを立てておきながら、実際は殺戮はなんとなくお流れになって観客を欲求不満にさせてしまうし、その後のシークエンスときたら町に謎の病気が蔓延して軍隊が前面封鎖、とかやっているんだが、どうせ最初からゾンビ映画だと判って観客は観に来るわけだから、分かりきった説明なんてグダグダやってないでさっさとゾンビに人間たちを齧らせればいいじゃないか。さらにその軍隊が病原菌封じ込めに来ているのに、誰一人としてバイオハザード・スーツを着ていないという詰めの甘さも白けさせられた。

■婿さまかよ!

その後の「誰がゾンビ菌に感染したのか?」とかいうサスペンスも「家族がゾンビになる悲劇」も、演出としての目新しさが見当たらず、過去何作も作られたゾンビ映画をおさらいしている以上のものが無い。新機軸があるとすればフィルム早回しまで使った高速で動くゾンビぐらいだろう。今回のこの『デイ・オブ・ザ・デッド』では、ゾンビがなんとゴキブリのように天井まで這って現れるんだが、最初はびっくりさせられるものの、このゴキブリゾンビの登場はたった一回のみで、その後活躍してくれるわけではないのだ。あと銃を乱射する兵隊ゾンビなんてのも出てくるけど、これだってなんだか思いつきでやっているだけのような気がしてしまう。

しかし今回のこの映画で最も笑ったのは日本版の予告編だ。YouTubeによる予告編を貼っておいたので御覧になって戴きたい。出演俳優の紹介で、「アメリカン・ビューティー」のミーナ・スヴァーリ、「ミッション・インポッシブル」シリーズのヴィング・レイムスとその代表作を紹介しているのに、ニック・キャノンだけは”マライア・キャリーの新郎”ときたもんだ!紹介するに事欠いて”○○の旦那”とか”婿”とかって、いったいどんなショボイキャリアの俳優だっちゅうねん!

■『デイ・オブ・ザ・デッド』ポスター集 (グロ画像につき見たい方は「続きを読む」をクリックしてくだされ)