チャーリー・ウィルソンズ・ウォー (監督:マイク・ニコルズ 2007年アメリカ映画)

テキサス出身の下院議員・チャーリー・ウィルソン(トム・ハンクス)は、政治よりも美女とお酒が大好き。目立った功績はないものの、大らかな人柄でみんなから愛されている。そんなお気楽な彼に、ある日ひとつのニュース映像に目を止める。ソ連に攻め入られ、難民にあふれるアフガニスタンの悲しい現状を目の当たりした彼は、テキサスで6番目にお金持ちのセレブ、ジョアンヌ(ジュリア・ロバーツ)と、CIA(アメリカ中央情報局)の変わり者・ガスト(フィリップ・シーモア・ホフマン)に後押しされながら、ひとり小国を守るため一大プランを打ち立てる!
■cinemacafe.net『チャーリー・ウィルソンズ・ウォー』

酒と女が好きなドスケベ政治家が、ハクいスケに欲情して、そのスケの言われるままに一つの国を救っちゃう、という嘘のような本当の話である。実はその救われたはずの国アフガニスタンにいたアルカイダが、アメリカに提供された武器と戦争ノウハウで今度は同時多発テロ起こしてアメリカを大パニックに陥れる、というオチまでついて、各所で変な話題になっている話でもある。しかしこのアルカイダのくだりは映画でははっきりとは言及されない。この結果から見るならば、これは皮肉な因果を描いたものなのか?とも思えるが、オレにはそういう映画には見えなかった。むしろこれは徹頭徹尾政治のドロドロと、歴史の不確定性を描いちゃった映画のようにオレには思える。

そもそもさあ、アフガニスタンに供与された武器が巡り巡ってアルカイダの手に渡り、そしてオサマ・ビン・ラディン911テロを起こした、だからチャーリー・ウィルソンはろくでもない奴なんだ、みたいな言及があるけれど、アメリカ裏ルートによる武器供与が旧ソ連アフガニスタン侵攻をことごとく叩き潰し、その為軍事費が増大した旧ソ連は経済的に疲弊して遂には解体、それと前後してベルリンの壁は崩れ、東西冷戦は終結し、ヨーロッパには新しい春がやってきたのではないか。この部分を取り上げるなら、それほど悪い話じゃなかったと思えません?そして実は、旧ソ連アフガニスタン侵攻自体、「モスクワをベトナム戦争のような泥沼に引き込む為に」アメリカが仕組んだ秘密作戦だった、という真実が後に分かっており(『アフガン戦争の真実―米ソ冷戦下の小国の悲劇 (NHKブックス)』金 成浩 著)、そうするとチャーリー・ウィルソンという政治家は、その作戦の中で勝手に動いた駒の一つでしかなかった、という見方だって出来るんだ。

そういうふうに見ると、チャーリー・ウィルソンという男の行動は、どこか喜劇の道化師めいた役割だったわけで、むしろ、トンチンカンな『アメリカの善意』を振り回したこの男に、滑稽であると同時に、なんだかひどく人間臭いものを感じてしまうんだよ。酒好きで女好きで、美人の言った事にコロッと参ってしまって、あとはリビドーの赴くままに、猪突猛進でなにかを成し遂げてしまう。なんか、凄く分かりやすい人間じゃありません?そんなの、美人を前にしたらオレだってやっちゃうぞ。それがたまたまアフガニスタンへの武器供与で、長〜い歴史から見たらそれは新たな悲劇を生んだだけなのかもしれないし、歴史の一つの断片を個人の物語として俯瞰するのなら、「結構いうまくやったじゃん!」という成功の物語になる、というだけの話じゃないか。

後もう一つ、そうは言いながら、チャーリー・ウィルソンも、金持ちのセレブ、ジョアンヌも、よく考えると、ちょっと怪しげな人間だ、という部分も面白かったな。テキサス出身の下院議員が、孤軍奮闘して武器供与の為の資金を集めたように最初思っていたけれども、実は彼は、アメリカの秘密予算を決定する《国防歳出小委員会》のメンバーだということが分かるんだね。それナニ?と思って観ていると、国防の為、議会の承認無しに際限なく予算を決定できる機関だっていう話じゃない。そういうのを決定できる機関の委員っていうところに、どことなく灰色なものを感じません?あとジョアンヌという女性も、とどのつまりキリスト教原理主義者で、さらにアメリカの富豪という支配層なわけで、こいつらがつるんでやったという所に、あんまり手放しに善行だなんて言えない部分があると思うんだよな。だから、オレなんかは、アルカイダ云々という結果の話よりも、こういった白人富裕支配層の、気まぐれが起こした奇妙な成功の物語、として観たんだよ。あと、CIA役のフィリップ・シーモア・ホフマンが、胡散臭さ全開で、実に面白い役だったな。

■Charlie Wilson's War Movie Trailer in 1080p High Defination