あぶな坂HOTEL / 萩尾望都

あぶな坂hotel (クイーンズコミックス)

あぶな坂hotel (クイーンズコミックス)

あの世とこの世の間に建つ「あぶな坂HOTEL」。ホテルオーナー藤ノ木由良と生と死の狭間にある魂たちとが織り成す物語。短編4作収録(他にシリーズ外のショートストーリー1編)。登場人物たちは自分が死んだことに気付かないままこのホテルを訪れ、そしてその事実に気付いた後、自分の生とはなんだったのかをこのホテルで独白し、ある時は逡巡し、あるいは錯綜し、そして慟哭する。そしてある者は死という自分の運命に抗おうと哀願し、または怒号を上げ、もう一度生きたいとホテルオーナー藤ノ木に訴え、その中には本当に生の世界へと戻ることの出来るものもいる。そしてある者はその運命を受け入れ、自らの人生を心の中で清算して、本当の”あの世”へと旅立つのだ。
この”生と死の中間の領域に存在する架空の場所でのドラマ”というのは結構ありがちなものだし、”死”そのものを題材に描くことは非常に生臭く、ある意味ドラマを作りやすいものであるが、そこは萩尾望都、非常に巧く物語をまとめ、実に驚きと感動に満ちた人間ドラマを作り出している。しかしこの物語、中島みゆきの曲をモチーフに描かれたというだけあって、狂言回し役の藤ノ木由良がとても中島みゆきに似せて描かれている。死んだら一回中島みゆきに出迎えられる、というのもある意味怖いよな。言ってみれば三途の川の前の賽の河原で待つ奪衣婆ってことだろ。だいたいオレ中島みゆきの唄って怖いもん。死んでからあれ聴かされたら嫌だよなあ。