ノーカントリー (監督:ジョエル・コーエン、イーサン・コーエン 2007年アメリカ映画)

本年度アカデミー賞4冠に輝くコーエン兄弟の話題作『ノーカントリー』である。あらすじは以前オレが原作を読んだ時のレビューから抜粋。

メキシコ国境近くの荒野。ヴェトナム帰還兵モスは銃撃戦で穴だらけになった数台の車両と血塗れになって息絶えた男達を見つける。車の中には大量の麻薬と200万ドルを超える紙幣。モスは金を持ち出して逃亡するが、そのモスを執拗に追跡する冷酷な殺人者の姿があった。そしてモスと殺人者、事件を捜査する老保安官との三つ巴の追跡劇が始まる。
■血と暴力の国 / コーマック・マッカーシー 

うーん、思ったほど面白くなかった。コーエン兄弟の映画作品は、『赤ちゃん泥棒』や『ビック・リボウスキ』のコミカルな路線は好きだったが、『ファーゴ』や『オー・ブラザー!』のなんだか勿体振ったようなもっさり感が馴染めず、それ以降の作品は殆ど見ていない。真面目に撮るほど詰まんない監督なのかなあと思ってたが、この『ノーカントリー』も、生真面目に原作を脚色したのが仇となったんではないか。

作者のコーマック・マッカーシーピューリッツァー賞受賞作家であり、一見クライムストーリーのように見えるこの物語も、”明日なきアメリカ”に対する憂いを込めた文芸作なのだろう。だがやはりオレのような即物的な人間が期待してしまうのは、文芸などではなく血と硝煙と殺戮の陰惨で虚無的な物語性だったりする。だから原作もそのように読んだが、コーエン兄弟が脚色し映画化したこの物語では、血みどろの銃撃戦や屍累々たる暗殺者の凶行に対する保安官の、そのアメリカの未来を憂える態度が、どこか取って付けた様な、ドンパチやりましたけどこれは文学なんですからね?といきなり高尚ぶられたような嫌みったらしさがあるのだ。特にラストのカタルシスに乏しい散文的な終わり方には、だからなんなんだよ、と突っ込んであげたくなってしまったぐらいだ。

そもそもアメリカが”血と暴力の国”であることを文学なんぞでちんたら描かれなくっても、ロメロとフーパーの死体で溢れたホラー映画を観ていれば、あそこの国が何に怯えていて何が狂っているのかなんて判りそうなもんではないか。『ノーカントリー』の物語の見所はハビエル・バルデム演じる狂った暗殺者アントン・シュガーの存在と、そのいかれた殺戮描写なのだが、それですらレザーフェイスやジェイソンが散々銀幕の上でやりつくしたことでしかなく、それをして「アメリカという国はこれからどうなってしまうのだろう…」などと言われても10年遅いんだよッ!と言いたくなってしまう。この原作の勿体振りのほどは同じく勿体振りの大好きなコーエン兄弟には我が意を得たりといった脚本になったのだろうが、結局は勿体振りの相乗効果を生み出したかったるい映画になってしまっただけのような気がする。

だからこの映画は122分の尺を90分ぐらいに詰めて、ラストは圧搾空気銃を引き摺った暗殺者シュガーがギャーギャー喚く金髪の美女を森の中で追い掛け回し、そこに騎兵隊の如くトミー・リー・ジョーンズ扮するベル保安官が到着、銃撃戦の末シュガーを退治して物語は一件落着、と思わせておいてシュガーの死体が忽然と消え、最後にあたかもレクター教授のように南米のどこかの町を薄笑いを浮かべながら雑踏に消えてゆくシュガーの姿を映してエンドクレジット、という形にすれば最高のB級ホラーとして完結したのにな。そして勿論シュガーが再登場する続編もありだ!その後「ジェイソンVSシュガー」とか「シュガーVSプレデター」とか「シュガーVSポケモン」とか訳判らん対決物を粗製濫造してくれるなら、オレはこの『ノーカントリーももうちょっと評価してやってもいいぜ!(偉そう)

■No Country For Old Men Trailer