にぎり寿司三億年 / 山上たつひこ

にぎり寿司三億年 (THE VERY BEST OF Tatsuhiko Yamagami)

にぎり寿司三億年 (THE VERY BEST OF Tatsuhiko Yamagami)

山上たつひこ撰集第2巻である。タイトルは『にぎり寿司三億年』。なんかもう悠久の時が流れるにぎり寿司であるが、ナマモノは鮮度が命だけに、あんまり悠久しすぎるのはマズイのではないか、などと思うのだが、そんなことはどうでもよくて、この表題作は、あのシーラカンスをにぎり寿司にしちゃおう、というスラップスティック・コメディなんである。まとまりもよく、どことなくハチャメチャSFを読んでいるような気にさせる快作。ただ、シーラカンスって、絶対不味いと思うんだけどなあ…。
続くは『にぎり寿司腰みの踊り』。…もうどうにでもしてくれ、というタイトルである。ニューギニアのジャングルに飛行機が墜落して、その生き残りの寿司職人が現地の裸族の皆さんに寿司の作り方を教える、というお話である。ジャングル奥地でどうやって寿司の材料を調達するのか?という場面が面白い。
『ファーブル新婚記』は特異体質(?)で家族全員が昆虫の体に変身する!という家に嫁いできた嫁の物語。昆虫の体って。ありえないって。『沈没村から』はダム底に沈む事が決まった村の、村八分にされている一家が、これ幸いと無人の村で暴虐の限りを尽くす、という物語。ギャグの風味をまぶしてあるが、よく読むと恐ろしく陰惨なお話で、後半に行くほどギラギラと狂気が輝き渡るという黒い凄みに満ちた物語だ。