裏切りの闇で眠れ (監督:フレデリック・シェンデルフェール 2006年フランス映画)


フランスのヤクザ映画です。主人公は組織に属さない殺し屋フランク(ブノワ・マジメル)。でまあ、ヤクザ映画によくある謀殺・故殺・暗殺・みせしめ・拷問・裏商売・闇取引・逮捕・投獄・結託・抗争・裏切り・復讐などなどが描かれるわけですね。特にストーリーの説明なんかしなくてもこういったセオリー通りの「直球ヤクザ映画」ということで良いんではないかと思います。逆に言えば取り立てて興味深い物語性も驚かせるようなプロットも無い映画なんですが、目を三角にした男どもが喚きあいながら延々ぶち殺しあう、という展開はなんだか飽きませんね。これ3時間ぐらいあったとしても悠々観ていられただろうなあ。徹頭徹尾冷徹な描写が続き、余計な情緒が描かれていない分、ある意味頭空っぽにして観られるタイプの映画なのかもしれん。お話も単なる潰し合いだし、ややこしい事ないからなあ。

しかし何が凄いって、この映画、男はヤクザ、女はパン助か情婦しか出て来ない!勿論この映画では女なんざ添え物な訳で、つまり何から何までヤー公オンリー、ヤー公同士の狭くて閉じた世界だけが描かれているんですな。そしてなにしろ”おフランス人”なのでオシャレなんだわ。ベルサーチ着て高級アパート住んで高級車乗り回して女はべらせてシャンパン飲んでるんだわ。そこだけちょっと羨ましいと思ったオレはダメ人間ですか。やっぱり額に汗したお金で贅沢するべきですか。まあしかし、今やヤクザなんぞよりも企業のほうが全然悪辣な事して金儲けているような気がするけどなあ…。一見合法的にやってる分だけヤクザよりタチが悪いかもよ?

オレはヤクザ映画には思い入れが無いんですが、日本のヤクザ映画もこんな所謂ヤー公ホモソーシャルな映画だったりするのかしらん。イタリアン・マフィアを描いた映画だとここに”家族”みたいなテーマが入ってくるんでしょうし、これがアメリカだと移民問題が絡むんだろうし、北野武の描いたヤクザ映画だと基本に虚無主義があったりしたんですが、この『裏切りの闇で眠れ』ではそういったテーマ性は薄いように思いましたね。結局ヤクザ同士が潰し合っているだけなので、「スゲエよぶっ殺しあってるよ」ではあるけれども「まあでもオレとはカンケーないし」にもなってしまう。だから暴力描写には興奮するけれども観ていてもそれほど緊張感が無い。共感できる登場人物がいないと映画はこんな観方しか出来ないんじゃないかな。結局企業がヤクザな事してる現代ではヤクザ映画というのはルサンチマンを描く物語でしかない訳で、それさえないこの映画は単に暴力だけしか残ってないという事になるのかな。

個人的には、ヤクザたちがみんなダンス・ミュージックをガンガン流しているクラブを経営していて、ぐあ、フランスのクラブってこんな怖いところなの!?などと日本のいちクラブミュージック好きとして少々ビビりました。フランスにはローラン・ガルニエとかフランソワーズ・Kとか有名DJが多いんですが、彼らもこの映画みたいなヤクザ同士の小競り合いとか見ながらレコード廻してたのかなあ、などとちょっと思ってしまった。あとこの映画は平日の夜に観に行ったんですが、観客はシブイ中年のサラリーマンが多かったですねえ。アフターファイブにフランスのノワール映画を観に行くサラリーマンって結構カッコよくないですか。あ、当然オレも含まれるがな!

裏切りの闇で眠れ(原題:Truands)トレイラー

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