チーズ味カール撲滅運動

元旦は例によって朝から映画を観に行っていたオレである。1日の映画感謝デーだから料金が安いのだ。早くに並んだから良い席も取れて悠々自適に映画を楽しんでいた。ところがだ。3つばかり向こうの席のオッサンがなにやらガシャガシャ音を立てて菓子袋を開け始めたではないか。いや、昔は映画館で客が出す音には結構神経質で、露骨に相手に嫌な顔を見せて注意していたマナーバカエチケットタコのオレであったが、もはやいい歳でもあるし、菓子袋の音ぐらいでギャアギャア騒ぐのは大人気ないと、最近はなるべくこういうのは気にしないようにはしていたのだ。しかしだ。このオッサンの喰い始めたのはどうやら明治製菓の『カール チーズ味』だったらしいのだが、そのチーズの臭いが臭くて臭くて気になってどうしようもなくなってきたのだ。
これが例えば最近シネコンなどで見かけるキャラメル味ポップコーンの匂いならまだ気になっていなかっただろう。しかしチーズの臭いは醗酵臭ということでああいった甘い匂いとは別段階の次元にある。映画館で食うハンバーガーやポテトの臭いも相当酷いものがあるが、物を食う場所以外でああいった臭いを嗅がされると実はああいう食い物が”臭いもの”であることを気付かされてしまう。納豆が臭かろうが魚が臭かろうがそれは食事の場所では美味そうな匂いに思えるのに、そうでない場所ではそうは思えないのも不思議なものであるが、その時の『カール チーズ味』のチーズの臭い方は、これまで何百と通った映画館の中で嗅がされた食い物の臭いの中でも、格別に強烈であったのである。
おまけにこのオッサン、チーズ味カールを口に放り込んでポリポリカリカリとやっては次に指についた菓子の粉をピチョピチョピチョピチョと音を立てて舐めているではないか。つまりポリポリ、カリカリ、ピチョピチョ、臭いプ〜ン、という最悪の殺人コンボをオレの傍でやりくさりやがっていらっしゃいましたんでございましたのである。だがオレは我慢しようとした。我慢しようと努力した。その時の精神状態を文字で表すのなら「ヘヘヘ、こんなちっちゃいことでさあ、いちいち腹立てるなんてさあ、へへへ、オトナじゃないよな、うんうん、良識のある社会人ってやつさ、へへへ、オトナはさあ、チーズ味カールの臭いで怒り狂ったりなんかしないんだよおお、そんなのでブチ切れるのは頭のおかしいヤツだけさあぁあぁ〜〜!グヘヘ〜〜!あああああくせえんだよおおおお〜〜!」といったものであると言うことが出来よう。
と言う訳で荷物をそそくさとまとめたオレは席を立ち別の席へと移動した。途中オッサンの膝に思いっきりぶつかったけれど勿論それは暗くてよく分かんなかったからであり、怒り心頭に発してオッサンの足を蹴り上げた訳では絶対無いからね!なにしろボクチン良識ある社会人だし!しかし何しろ別の席に移った後も不快感で頭がぐるぐる廻っていて映画どころではなかったのは確かだ。だいたい映画館でこんな理由で席を変わったことなど滅多に無い。そして思ったんだがこれはオッサンが悪いのではなく何もかもチーズ味カールが悪いのだ。なぜならオッサンがキャラメル味ポップコーンを食っていたらこうはならなかった筈だし、逆に別のオッサンがチーズ味カールを食っていたとしても同じ結果になっていたからである。
そう、チーズ味カールこそが諸悪の根源、悪の枢軸、宇宙の破壊者、冥府の暗黒大魔王であったのだ。ここでオレは主張したい、この世界から一つ残らずチーズ味カールを無くしてしまえと。チーズ味カールを一つに集めて見せしめの炎で焼き尽くしてしまえと。チーズ味カールを食っているものを見つけたらチーズ味カールシンパと見なし連行し尋問し思想矯正しチーズ味カールなど食い物ではないと洗脳したあと社会に戻せと。これをしてチーズ味カール暗黒時代と呼ぶものがいるかもしれないがそれは単眼的跛行プチブルジョア思想の賜物でしかない。カールの歴史を遡ってみるのならチーズ味など大衆迎合的で無批判かつ低俗下劣な味のひとつでしかない。これまで明治製菓は「こんぶ味」ないし「うす味」という上品かつ至高の味わいを持ったカールを製造してきているではないか。ところが現在ではこれは関東では売られておらず、関東ないし西日本のみでの販売だと言う。オレはこの事実に憤る。なぜならオレはうす味カールが大好きだったからである。これをなんで関西人だけに食わせるのだ。あいつらにはたこ焼きがあるから十分じゃないか。オレは望む、関東にうす味カールの復権することを。そしてチーズ味カールの製造販売中止と未来永劫に渡る存在の禁止とを。
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