敗北の墓標

いつもくどいほど書いているのであるが、オレは自称”無頼派”で通っている男なのである。周囲は単に”変なオッサン”だと思っているらしいが、心の中に熱き無頼の魂をたぎらせていればそんな声など気にはならない。全ては心意気の問題なのである。
そんなオレだったのであるが、年末の忙しさにかまけてついつい自らを裏切る行為に出てしまった事を皆さんに告白しなければならない。
実は今朝、ふらふらと入ったキャフェエで《バターたっぷりのさくさくクロワッサンとフレンチローストコーヒーの朝食》なんぞというふざけたもんを食っちまったのである。バターたっぷり?さくさくクロワッサン?なんじゃあそりゃああ!である。そもそもクロワッサンなんぞという軟弱な食い物は男の食うものであるとは断じて思えない。あんなものはオンナコドモのオヤツである。
真の男が食うべき朝食、それは《にぎりめし》にトドメを刺す。それも具も無く海苔も巻いていない塩むすびである。シンプルかつ豪胆、トラディショナルでありコンサバティブでありウェルメイドな食べ物、食べ物の基本中の基本、それが《にぎりめし》なのだ。古来より男は《握りこぶし》《握りっ屁》など”握ったもの”が大好きなのである。握る事によってそこに魂を込め、身体に活力と精神力を呼び戻すのである。それは真の男の神聖なる禊であり儀式なのだ。
にも拘わらずついつい魔が差して《バターたっぷりのさくさくクロワッサン》なんぞというスッカスカの食いもんを食っちまったのである。こんなもんでリキが入るか!?過酷な社会で戦い抜けるか!?しかし、このオレは食っちまったのだ。《バターたっぷりのさくさくクロワッサン》を。こんなオレに、もはや”無頼派”を名乗る資格など無い。無頼派の紋章を失った男、それは単なる負け犬、牙を失った狼である。そのへんに転がっている平々凡々とした詰まらない連中と既に同類だ。だからもうこのオレに無頼派の輝かしい生き方を求めはしないでくれ。オレは終わったんだ…。
それにしてもクロワッサン本当にサクサクしてて美味かったなあ!バターの香りと甘みが素敵でさあ!もう無頼派がどうとか男がこうとかなんてどうでもいいや!明日も食べようっと!テヘッ!