もののけづくし / 別役実

もののけづくし (ハヤカワ文庫NF)

もののけづくし (ハヤカワ文庫NF)

前回『虫づくし』が面白かったので同じ”づくし”シリーズということで読んでみた。今回別役氏が弄くるのはもののけ。妖怪である。しかし例によって真っ当な「妖怪図鑑」などには決してなっていないところは前回通りである。ろくろ首や座敷わらしなどの御馴染みの妖怪も出てくるが、半数は別役氏の創作である。しかし考えるに、”真っ当な「妖怪図鑑」”というのはなんなのだろう?妖怪といえば誰でも思い浮かべるのは我が心の師水木しげる大本尊、そして水木氏が元にしたであろう鳥山石燕などの中世の絵草子ということになるだろうが、もともと実体の無い妖怪を想像力で描いたに過ぎないものを《オリジナル》と呼ぶのもおかしな話ではないか。

そもそも妖怪なんぞというものは”雰囲気”とか”気配”みたいなもので、それに形や人格を与えたのが巷に溢れる妖怪像という訳なのだろうが、その”雰囲気”や”気配”から連想されるものが赤いのか黒いのか、丸いのか四角いのかなどというのは、それを感じた者の主観でしかないのだから、実はどんな形や名前があったって良いのである。更に民俗学的に言うなら伝承や禁忌に形を与えたものもあろうが、それもまたあくまでその時代や地域限定のものもあろうから、決してその妖怪の形が現代でも普遍なものである訳ではないはずなのだ。

そんな訳でこの『もののけづくし』だが、前回紹介した『虫づくし』のナンセンスさは少々弱まり、逆に既存の妖怪に別個の意味付けをしたり、ある種の事物に勝手に妖怪的な意味付けをしたりと、「ラベルの張り替え」遊びのような文章が今回のメインとなっている。だからよく読むと批評的であったり皮肉っぽく書かれていたりする文章もあって、『虫づくし』とはまた別の趣があって面白かった。