スティーブン・キング短編シリーズ 8つの悪夢 (PART.2)

スティーブン・キング短編シリーズ 8つの悪夢(ナイトメアズ)コレクターズ・ボックス(3枚組) [DVD]

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昨日に引き続き『スティーブン・キング短編シリーズ 8つの悪夢』を紹介します。今回はDisc.2にあたる3篇。

《第4話》ハワードに何が起こったか (原作:「争いが終わるとき」)

主人公の弟は子供の頃から天才的な頭脳を持っていた。その弟が911事件をきっかけに”世界から争いを無くす方法”を研究し始め遂にそれを実現させるが、それは地球規模の災厄の予兆だった…。いわゆる「地球滅亡SF」ということになるんでしょうか。キングは長編『ザ・スタンド』でも世界の破滅を描き、『トミーノッカーズ』や『ドリーム・キャッチャー』というSF作品も書いていますが、書かれたものはとことんベタな60年代SF映画テイストなんですね。キングにとってSFとはそういう郷愁の中のものなのかもしれません。この作品も昔風の破滅SFの設定を借りてますが、ドラマの基本となるのは家族愛なんですね。ホラーの帝王と呼ばれるキングですが、作品の根幹ではいつも家族と家族愛が描かれているように感じます。彼の作品の恐怖の源泉というのは、彼自らの愛する家族を失うという恐怖を妄想する時に生まれているのではないでしょうか。
【原作収録作】

《第5話》ロードウィルスは北に向かう (原作:「道路ウィルスは北へ向かう」)

売れっ子作家リチャードはフリーマーケットで奇妙な絵を見つけて購入するが、その絵は次第に背景を変え、そして不吉な事が起こり始めた…。出演トム・べレンジャー。主人公の健康への不安が具現化したのがこの絵に描かれた不気味な男であり、即ちそれは死の化身であって、あたりに死を撒き散らしながら次第に主人公に近づいてくる、といったお話なのですが、物語の結末をどこに収めようとしているのか見当がつかない前半の展開はなかなか楽しめました。ただ何で死の化身が絵となって現れなければならないのか、という部分の説明がきちんとされていないのと、主人公はS・キングばりの有名ホラー作家という設定なんですが、これの必然性があまり感じられなかった、という部分で物語全体にちぐはぐさを残しちゃいましたね。後半はありきたりのラストになってしまい、もうひと捻り欲しかった所か。
【原作収録作】

幸運の25セント硬貨 (新潮文庫)

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《第6話》フィフス・クォーター (原作:「第五の男」)

刑務所を出所したウィリーは妻にもう2度と犯罪は犯さないと誓うが、そんな彼の元に先に出所した刑務所仲間の男が血塗れになって転がり込む。彼は死ぬ間際に大金を隠した場所の地図の一部を手渡すのだが…。この作品はホラーとかスーパーナチュラルな要素の無いキング流のパルプ・フィクションとして仕上げられています。しかしそこはキング、”4つに切り分けられた地図”なんて発想は海賊の宝の地図を思わせるどことなく無邪気なものなんですね。このベタさにもキング幼少時の記憶というものが彼の創作に大きく関わっている事をうかがわせます。ただし物語の展開はあくまで暴力的、銃弾飛び交いあちこちに死体と血の海が出来上がります。このバイオレンスと稚気の融合というのがキング小説の核となる部分ということが出来るんではないでしょうか。映像化された作品も見ごたえあり、この《8つの悪夢》シリーズの中でも完成度の高いものとなっています。オチもいいしね。
【原作収録作】