キングダム/見えざる敵 (監督:ピーター・バーグ 2007年 アメリカ映画)

サウジアラビアの首都リヤドにある外国人居留区で米国人を狙った爆弾テロが発生、300人に及ぶ被害者を出した。FBI捜査官ロナルド・フルーリージェイミー・フォックス)は現地で犠牲になった同僚捜査官の無念を晴らすべく精鋭部隊を結成、テロ捜査の為周囲の反対を押し切ってサウジアラビア入りする。しかしそこはアメリカの流儀が通用しない異邦の地であった。

911を境に変化した世界の構図を下敷きに、政治的社会的描写を生かしたアクション映画なのかと思ったらどうやらそうでもなかった。FBI捜査官チームが独断で他国に捜査に赴き、銃撃戦までやった挙句たった5日で凶悪テロ事件を解決するとは、これは実はチャック・ノリスランボー〜シュワルツネッガー系のマッチョ映画なんじゃないんですか!?いえ、いいんです、ランボーでもシュワでもなんでもアリです!派手な銃撃戦さえ見られりゃそれでいい!要するに「理由をつけて中東でドンパチやりたかった」「911絡みだしウケるんじゃね?」「アラブのロケーションは目新しいと思うよ」というそういう目論見の元で製作された映画なのでしょう。だから政治的なものを主眼にした映画ではなくフツーにアクション映画として観るべき映画です。

それにしてもFBI捜査官チーム優秀すぎ。サウジアラビアの捜査チームがアラーに祈りを捧げてばかりでまるで動きやしないところを、たった5人で2,3日でさっさと証拠見つけてテロ首謀者に迫ってしまうんですから。サウジの連中がこの間やった事といえば拷問だけです。これじゃちょっと無能に描かれすぎじゃないでしょうか。あとテロリストとの銃撃戦も、多勢に無勢でしかも相手がRPGまで持ち出しちゃったりしているのに、FBIチームはこれを千切っては投げ千切っては投げ、鬼神の如き戦いぶり、しかも殆ど無傷でこれを全滅させてしまいます。おいおい自爆テロまでおこした凶悪テロリストのくせに、銃撃戦は何でこんなにヘナチョコなんだ?ちゃんと訓練したのか!?お前等ショッカー戦闘員並みの戦闘力しかないのか!?ビンラディンは泣いてるぞ!といった感じです。要するにアラブの皆さんを舐め切った映画であることも確かで、さすがアメリカ、世界一のガキ大将の国の映画だなあ、と思いました。

ただサウジ側が全然ダメ、という描き方ではなく、お目付け役であるサウジ国家警察アル・ガージー大佐(アシュラフ・バルフム)をFBI捜査官達と絡ませることにより、”サウジ側の立場”も一応説明しています。最初強行に禁止項目ばかり並べ立てていたガージー大佐が、段々とFBI捜査官側に歩み寄り、捜査の進展を喜んだりテロを憎む自らの心情を吐露したりし、最後にはFBI捜査官達と共に銃を持って戦うまでの様が、この映画をただのアメリカ万歳のマッチョ映画にはしていなかったのだと思います。

アクション映画としてみるなら、ドンパチ自体は後半で派手にやるものの、前半はテロ事件の描写を除けば地道な捜査に終始しますから、退屈でこそないにしろ全体的なドンパチのボリューム自体に満腹感を得られなかったかなあ、といった印象です。その辺のバランスを調整して貰えればもっと見ごたえのある映画になったかもしれません。

■The Kingdom Trailer