レミーのおいしいレストラン (監督:リチャード・ラグラヴェネーズ 2007年 アメリカ映画)

「ネズミが人間操ってフランス料理作っちゃうんだってよ。」ピクサーアニメは大好きなんですが、予告編を観た時はその設定のどこが面白いんだかピンと来ず、どうもオレ好みの映画では無さそうな気がしてパスするつもりでおりました。しかし上映されてみるとこの映画、軒並み評価が高い。これは観とかなきゃマズイかも、と思って劇場に行ってきました。そしてその感想は…。「面白かったぞお〜〜〜ッ!」

まず最初にドブネズミのレミーの一家が描かれるんですが、ここで、何故レミーは料理に興味を持つようになったか?がきちんと説明されているんですね。一つの”味”を色と形の動きで表現したその方法はとても分かりやすかった思う。それが掛け合わさって新しい”味”になる…というくだりでは映像がシンフォニーのようにカラフルになるんです(まあ一瞬日本のグルメマンガの「あんまり美味しくて口の中に虹が出来るシーン」なんてのを思い出しちゃいましたが)。勿論ネズミは料理なんてしませんが、それをすんなり納得させ、映画の世界に入っていける物語の運び方がとても上手なんです。そしてここで一軒家の婆さんとネズミたちとの攻防戦が描かれるんだけれども、これが昔「トムとジェリー」なんかで見せられたスラップスティックなアクションで、ああ、この映画はこのドタバタのアクションを楽しむのも一つの要素になっているのか!とやっと気付きました。このドタバタアクションは終盤まで何度も描かれ、単に”料理を作るネズミ”だけの物語ではない楽しさを盛り上げてくれます。

そして舞台はパリへと飛びますが、映画の主要舞台であるこのパリの描写とその雰囲気がとても美しくて素敵です。結構忠実に街並みを再現しているようなんですが、フランスにもパリにも興味の無い野暮天のオレでさえちょっと行ってみたくなってしまう程です。行かないけど。ここで人間のほうの主人公リングイニ君登場、こいつがまた箸にも棒にもかからないグダグダでヘロヘロの役立たず野郎で、現実に目の前にいたらちょっと苛々させられちゃう人かも。このリングイニ君とレミーが出会い、二人羽織みたいな状態で料理を作らせるんですが、この「人間操作」の方法もなんだかちょっと可笑しくて、感じとしては巨大ロボットを少年が動かしてるって雰囲気でしょうか。最初は上手く行かなくてモタモタしちゃうところを一所懸命練習して上手に動かせるようになる描写も、端折ることなくきちんと描いており、これも説得力を見せるんですね。この映画はこんな風に、コミックや御伽噺のような題材なのに、物事がなぜそのようになるのか、そのように成り立っているのか、をとても丁寧に説明しているんです。

この映画の見所のもう一つは、丹念に描かれたフランス料理の厨房の様子とそこに置かれた調理用具や食器、さらに食材などのリアルさでしょうか。実写映画ではここまでくっきり見せることが出来ないんじゃないかな。そこで働く料理人達の面構えも、デフォルメされているとはいえ、フランス映画によく出てきそうな癖のある顔つきの人間ばかりなんですね。アメリカ映画とフランス映画って、登場する俳優の顔つきが違うよなあ、これ、そこの国民がどういう顔にリアリティを覚えるかってことじゃないのかなあ、なんて思ったことがありますが、この映画でもその個性付けをきちんとしているような気がした。そして、なによりCGで作られた料理の映像の美味しそうなこと!コミック風の登場人物とは逆に、とてもリアルに描画されてたんではないでしょうか。ちょっとフランス料理食べてみたくなってしまいました。食べないけど(おい)。この映画はこんな風に、コミカルにデフォルメされた登場人物(&ネズミ)の容貌やアクションとは対照的な、細やかに作り込まれたリアルで落ち着いた雰囲気の背景描写が映えている、といった部分で、これまでのピクサーアニメとひと味違っているような気がしました。

物語はリングイニ君の生い立ちの秘密や、男勝りな女性シェフ・コレットとの恋愛模様、レミーのネズミ一家のその後や、リングイニ君の才能に疑いを持ち付回す厭味な料理長スキナー、フランス料理界最凶の料理評論家イーゴとの料理対決など、盛り沢山のドラマを描き、そして心温まるラストへと向かっていきます。子供達はネズミと人間のコミカルなやり取りを喜ぶでしょうし、大人ならフランス料理の作られる厨房とその仕事風景を興味を持って眺められることでしょう。勿論女性ならフランスの風景や料理の粋な雰囲気を楽しめるでしょうし、オレの様なヤツは「CGスゲエ!グフフ」と画像に見惚れる事も出来るでしょう。老若男女誰でも楽しめるポイントのある実に良く出来た、素晴らしい物語です。ちなみに原題は『Ratatouille』、フランスの家庭料理ラタトゥーユのことです。家庭料理の名前がタイトルにつけられたフランス料理の映画、という所に、この映画の目指していたものがうかがえるような気がします。

■Ratatouille trailer