Out Of The Woods / Tracey Thorn

Out of the Woods

Out of the Woods

暫く休止状態だったエヴリシング・バット・ザ・ガール(EBTG)のヴォーカリスト、トレイシー・ソーンが久々にソロ・アルバムを発表。なんとソロとしてはEBTG結成前の『遠い渚』以来25年ぶりのものとなるらしい。音のほうはというと休止前のEBTGと変わらぬエレクトロニカ風のものが多いが、パートナーであったベン・ワットの趣味であるハウスやドラムンベース調のものよりはもっとポップだしアコースティックな音もあったりする。プロデュースや演奏にはベン・ワットの名前は無く、本当にトレイシーの個人的なソロらしい。
そしてこの作品にはソロ時代やその後のEBTGのアルバムに見られたひりひりとした孤独感や喪失感が薄い。むしろ落ち着いた伸びやかな曲調と歌声が聴く事が出来る。EBTG休止の理由は彼女トレーシーが出産し、育児に専念したいという理由だったからだそうだが、そんな所からも、今現在の彼女の音楽的スタンスがどこにあり、モチベーションがどこから沸くのか想像できると言うものではないか。アルバム1曲目などは子守唄そのものなのである。
確かにこのアルバムにはEBTGで聴けた緊張感は殆ど無いのだけれども、それはいつも俯いているような青年期を過ごしていた友人と久しぶりに会ったら、子供の親となってとても満ち足りた表情をしている様へと変化していたのを発見したような、何か奇妙な感慨を覚える音として仕上がっている。
EBTGの2ndアルバム『Love Not Money』の中で「お転婆娘の自由な世界なんてワイフになっちゃったらおしまい」(Trouble and Strife)と歌っていたトレーシー・ソーン。彼女は母になって自分の居場所を見つけられたのだろうか。