人形が見てる

遥か遠いジュラ紀白亜紀から狭いながらも侘しい老朽アパート(通称なめくじ長屋)に自縛霊のように棲み付いているオレであるが、どうやら流し台がいかれて下の部屋の天井に水漏れが発生したらしい。慌てて大家がやってきて、流し台を治さなければならないから暫く水を使わないでくれという。炊事を控えて洗面はトイレで行えばいいし、水代わりにビール飲んでりゃあ事足りるから、まあしゃあねえべ、と了承したのだが、段取りが悪いのか工務店のおっちゃんに「あそこの部屋には魔物が出るから」と断り続けられているのか、なかなか修理にやってこない。

5日ほど我慢していたら今日修理に取り掛かれるという大家からの連絡があり、ああやっとかと思って部屋に帰ると既に修理は終了、この間までは侘び寂びを形で表わしたような苔生し巌となりつつあった流し台が文字通りピカピカに輝く新品に替わっているではないか。まるでiPodの鏡面加工並み、実はあれは世界でも日本の新潟地方でしか出来ない匠の技だとどこかのwebページで読んだ事があるが、まさにそれを思わす技術大国日本の職人たる優れた仕事振りにしばし感嘆したオレであった。いや、かなり大袈裟に書いたけど。

しかしその時オレはあることがちょっと気になっていた。オレの部屋に仕事に来た工務店のおっちゃんは、オレの部屋に水子供養の地蔵の如く並ぶ大量のフィギュアーズ&ドールズの熱い注視の中でお仕事をしていたんだろうなあ、と。オレはここの住人だからなんとも思ってはいないが、おっちゃん、「いったいこの部屋のヌシは何者なんだ?」と磁場や霊気に似た重苦しい雰囲気に包まれながら脂汗タラタラで仕事していたんだろうなあ。おっちゃん良い仕事してくれたのにゴメンな!今晩うなされてなければいいんだが…。「に、人形がぁ〜人形がぁ〜!オレを見つめてるんだぁあぁ〜〜〜ッ!」などとうめき声を上げのたうちまわったりしてないだろうなあ…。