ドリームガールズ (監督 ビル・コンドン 2006年 アメリカ映画)

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60年代アメリカ。スターになる夢を抱いたコーラスグループの少女達が、野心的なマネージャーの手によりショウビジネスの世界で成功を手にしトップへ上り詰めるが、その影では仲間同士の対立や反目、愛と裏切り、利益優先の音楽ビジネスへの疑問が生まれてゆき…。1981年ブロードウェイで上演され大ヒットを記録し、82年にはトニー賞6部門を受賞、以降4年間に渡ってロングランを続けた伝説的なミュージカルの映画化作品。

主人公達のグループ”ドリーメッツ”(後に”ザ・ドリームス”)はザ・シュープリームスを、そしてエディ・マーフィ演じるジェームス・“サンダー”・アーリーはジェームズ・ブラウンをモデルにしたといいます。とすると勿論ビヨンセ演じるディーナ・ジョーンズはダイアナ・ロスだし、グループを追われるエフィー・ホワイト(ジェニファー・ハドスン)には実際にシュープリームスを脱退したフローレンス・バラードという歌手がいたのらしい。そして当然レコード会社はモータウン。そういう部分を理解しているとなお一層楽しめるでしょうが、知らなくとも一級のエンターティンメント作品として観る事が出来ます。なにより60年代ショウビズ世界を再現した華麗なステージ衣装とパフォーマンスが素晴らしい。ステージがせり上がり眩いスポットライトを浴びるザ・ドリームス達の、まさに美神像のようにポージングした立ち姿には見惚れることでしょう。特に実際にもトップスターであるビヨンセの美しさは格別でした。

ミュージカルということで映画全編に渡って歌われるソウル・ミュージックがこれまた素敵です。ビヨンセはもともとビルボードチャートNO.1のシンガーなので言わずもがななのですが、歌が上手いばかりに我を通し過ぎグループを追われてゆくエフィー役のジェニファー・ハドスン、彼女のパワフルで魂を熱くさせる歌声が兎に角強烈。中でも仲間との離反、そして恋人との別れを同時に体験してしまうシーンで歌われる"And I'm Telling You"は、この映画のハイライトシーンと言っていいほど圧倒的な歌唱力と説得力に満ちたパフォーマンスです。本年度オスカー助演女優賞受賞も頷けます。この歌もそうですが、ソウル・ミュージックというのは黒人達の血の濃さ、精神的なばねの強さを如実に感じさせます。だからこそあれほど胸を打つ歌声を披露することができるのでしょう。また、エディ・マーフィーもサタデーナイトライブ出身らしく器用に歌声を披露しているし、ジェイミー・フォックスは野心に満ちたマネージャー役を、常に押し殺した表情で好演していました。

当時フォード自動車が置かれていたデトロイトはアメリカの中心的な車産業地帯でした。そこに安い労働力として集まった黒人達によってデトロイトはアメリカでも有数の黒人達の街となります。それにより黒人文化はここで爛熟を見せたのでしょう。ソウル・ミュージック・レーベルで有名なモータウンもそんな”モータータウン”で出来た音楽レーベルです。アメリカ60年代というと黒人公民権運動が最高潮に達していた時期で、映画ではキング牧師のあの有名なワシントン大行進でのスピーチをレコード化するシーンなども織り込まれ、またフォーディズムが瓦解した為に引き起こされたデトロイト暴動も描かれますが、映画では人種差別問題を直接的に描くことなく、黒人達が歌を武器に社会的に認められていくその過程の高揚感にスポットを当て、実にポジティブな作品として仕上がっていると思います。

しかしこういうお話って一歩間違うと”芸能界ゴシップ裏事情物語”になっちゃうんでしょうねえ。似たようなサクセスストーリーをそのまま日本で再現しても『苦節ウン年!遂に歩むことの出来た演歌の花道!お母さん聴いて下さい!○○は故郷の為に歌います!』みたいになっちゃってあんまりカッコよくない…。同じ風に情緒を歌ってもどうしても湿っぽくなってしまう。逆に日本のお爺ちゃんやお婆ちゃんがソウル聴いても濃すぎて疲れちまうんだろうなあ。案外怖がっちゃうかも…。文化の違いってヤツなんでしょうかねえ…。

ドリームガールズ トレイラー

Dreamgirls Music Video

■これはオリジナル・ミュージカル・メンバーによる1982年トニー賞でのパフォーマンス。なにしろ途中から始まるJennifer Holliday、"And I'm Telling You"の唄が鳥肌が立つほど素晴らしい!映画でもこのシーンが一番見所でした。