《マスターズ・オブ・ホラー!⑥》ミック・ギャリス、ウィリアム・マローン篇 

『マスターズ・オブ・ホラーDVD-BOX Vol.2』のレビュー、2回目です。

■チョコレート 監督:ミック・ギャリス (スリープ・ウォーカーズ、シャイニング(TV版))

屑のような無為な日々。破綻した結婚生活を過去に持つ男の、孤独な生活の唯一の娯楽はケーブルTVのポルノ・チャンネル。そんな男がある日、電撃に撃たれたように幻覚に襲われる。誰か別の人間の中に入ったような感覚。それも女である。そして男はその女を探し始めるが…。どちらかというとホラーというよりサイコスリラーといった趣の作品。しかし考えようによっては幻覚というのは本当に幻覚以上のものではなく、見つけた女というのも、男が自分の幻覚に現れた女だと勝手に思い込んでいるだけなのかもしれないではないか。だから一見ミステリアスに描かれるこの作品は、勘違い男の変態ストーカー物語にしか見えなかったりする。だいたいさあ、見ず知らずの目つきの怪しい男が「僕は君の事を知っている、君のことを愛しているんだ!」とか言いながらやってきたら、普通は向う脛蹴り飛ばして警察にツーホーしました!にしかならないだろ。そういった意味ではホラーではないけどキモイオハナシではある。男は食品添加物を合成するラボに勤めていて、その薬品が幻覚の引き金になったようなことがほのめかされるが、この部分をもう少し掘り下げて、「他人の体験を追体験できる薬品」を生み出したことの悲劇として見せたほうが説得力があったのではないか。なお主演のヘンリー・トーマスはあの『E.T.』の主演子役である。純真な少年も成長すれば変態オヤジの仲間入りをしちゃう、という悲しい物語でもあるのだ(?)。


■閉ざされた場所 監督:ウィリアム・マローン (フィアー・ドット・コム、TATARI タタリ

16歳の少女タラは何者かに拉致され、山深い森の中に建つ謎の邸宅の地下室に監禁される。地下室には夥しい血糊と既に亡き者となった被害者達の遺留品、そして一人の少年がいた…。よくあるサイコホラーかと思って見始めると、何かに悩みを抱える誘拐犯の夫婦、そして突然地鳴りを始める邸宅、謎に満ちたダイイング・メッセージなど、一筋縄ではいかない物語に次第に引き込まれてゆく。そして物語は二転三転し、思いもよらぬクライマックスが。これはかなり良作でしたね。サイコ、ゾンビ、モンスターなどホラーの様々なジャンルを横断しながらもそのどれでもない独創性が光っていたと思うし、ホラーであると同時に一風変わったダークなボーイ・ミーツ・ガール・ストーリーでもあり、それがクライマックスのどんでん返しとなって生きていて、さらになんだかハッピーエンド?になっちゃう、という力技が凄かった。監督のウィリアム・マローンはホラー専門の映画プロダクション、ダークキャッスル・エンターテインメントの旗揚げ映画『TATARI タタリ』を監督し、”決して止まらない機械仕掛けの巨大なお化け屋敷”といった映像を描き出していた。非常にサイバーな感触を持ったこの映画で、ウィリアム・マローンはホラーの新しい局面を生み出したのではないかと思う。この『閉ざされた場所』でも、ホラー的な陰惨な映像と対比するようにしっとりとした心理描写や落ち着いた色彩の情景などが描かれ、その非凡さを覗わせる。