《マスターズ・オブ・ホラー!⑤》トビー・フーパー、ジョン・マクノートン篇

『マスターズ・オブ・ホラー』、世界のホラー映画の巨匠13人を集め、それぞれの個性で独自のホラー映画を撮らせたアメリカのテレビ・オムニバス・シリーズです。前回DVD4枚組のBOX SET『マスターズ・オブ・ホラーDVD-BOX Vol.1』の紹介をしましたが、今回は『マスターズ・オブ・ホラーDVD-BOX Vol.2』ということでDVD3枚組のBOX SETの内容を紹介したいと思います。今回はトビー・フーパージョン・マクノートン、ミック・ギャリス、ウィリアム・マローン、ジョン・ランディスジョー・ダンテの6人の監督作品が収録されており、これを4回に分けてレビューします。なおUPする日にちは飛び飛びで。4日連続ホラーじゃさすがにきついだろ…。

■ダンス・オブ・ザ・デッド 監督:トビー・フーパー悪魔のいけにえポルターガイスト

トビー・フーパーといえば説明するまでも無く『悪魔のいけにえ』の監督であるが、しかしそれ以外の作品に恵まれているかと言うと?である。だからある意味『悪魔のいけにえ』は幸運の生んだ偶然の産物だったのかもしれない。『いけにえ』以降の作品でのフーパーの作風を見るならば、必要以上にくどい、しつこい、といったところだろうか。ただし望んでか望まなくてか、それが奇妙なユーモア感覚を醸し出しているのも確かだ。『スペース・バンパイア』なんて、シリアスな演出してるのになんか笑っちゃいませんでした?さて今作は戦争やテロで破滅に瀕した近未来の世界が舞台。街では刹那的な若者達が暴れまわり、怪しげなクラブの出し物である蘇生した死体のダンスを眺めるのが一番の娯楽となっていた。そしてそこに、ただひとつ平和だった街に住む若い女が紛れ込み…というお話。画面が痙攣を起こすヴィジュアルエフェクトをくどいほど使った映像は最初新鮮だったもののだんだん飽きてくる。やはり相変わらずしつこい演出だ。そして途中まで見て気が付いたが、これの原作はロバート・シェイクリイの『死者のダンス』(早川異色作家短編集 巻収録)ではないか。うーん、原作としてはちょっと古いかなあ。小説のほうでは東西冷戦やベトナム戦争の影響が濃厚な冷笑的な物語だったが、映画ではむしろ荒れ狂うティーン達の物語をテーマの中心に据えていると思う。クオリティは落ちるがフーパー版『時計仕掛けのオレンジ』と言ったところか。ただねえ、死体のダンス見るのがそんなに面白いかあ?なんて思っちゃうけどなあ。なお、怪しげな興行主を『エルム街』のロバート・イングラムイングランドが好演している。(訂正:イングラムパトレイバーっすよ!)

■ヘッケルの死霊 監督:ジョン・マクノートン (ヘンリー、ワイルド・シングス)

これも死者の蘇生をテーマにした物語だが、舞台は19世紀のどこかの国となっている。冒頭、死体解剖とフランケンシュタインを思わせる不気味な実験に始まり、犬の死体を甦らせる怪しげなネクロマンサーの登場、美しいが陰のある若い人妻、謎めいた事をほのめかすその年老いた夫、そして淫猥と陵辱に満ちたクライマックス…と飽きさせない展開を見せる。絶命した愛する者を甦らせたばかりに起こる悲劇…と題材的にはオーソドックスながら見せ方が上手く、引き込まれる要素を持ち、作りもとても丁寧で、思った以上に面白く見ることが出来た。監督の手堅い演出の手腕であると同時に、ホラー作家・クライブ・バーカーの原作によるところも大きいだろう。おぞましく忌まわしいラストの狂宴などはバーカー節全開と言ったところだ。なお、今回の《マスターズ・オブ・ホラー》シリーズにこの作品の監督として当初名を連ねていたものの降板したジョージ・A・ロメロが”協力”という形でクレジットされている。監督のジョン・マクノートンは『ヘンリー』というシリアル・キラーをモデルにした作品を監督しているが、ホラー映画監督というわけではない。また、この『ヘンリー』の完成度に注目したマーティン・スコセッジがマクノートンにオファーし、マクノートンの監督でロバート・デ・ニーロビル・マーレイユマ・サーマンという豪華な出演人の『恋に落ちたら』という作品を製作している。これは個人的に結構好きな映画でした。(ユマ・サーマン出てたし。)