《マスターズ・オブ・ホラー!②》ダリオ・アルジェント、ラッキー・マッキー篇

『マスターズ・オブ・ホラー』、世界のホラー映画の巨匠13人を集め、それぞれの個性で独自のホラー映画を撮らせたアメリカのテレビ・オムニバス・シリーズです。
昨日に引き続き2回目です。今日は『愛しのジェニファー(監督:ダリオ・アルジェント)』、『虫おんな(監督:ラッキー・マッキー)』をお送りします。


■愛しのジェニファー 監督:ダリオ・アルジェントサスペリア フェノミナ

警官である主人公はある事件の被害者だった身元不明の知恵遅れの女を引き取るが、淫蕩な肉体から妖しいフェロモンを漂わすその女の顔は醜く崩れていた…。ダリオ・アルジェントなんて久しぶりだなあ。「サスペリア」は喧しくて苦手だった。「フェノミナ」は凡作だったがアルマーニに身を包んだジェニファー・コネリーがなんとか救ってたな。両方とも今見直せば別の感想を持つかもしれないが、あんまり見直したくないなあ…。今作はイタリア監督ということでちょっと他作品よりも異色だったかも。一応コミックの原作が存在しているらしいです。監督も言っていたがこれは『美女と野獣』の逆バージョンということらしい。女の顔の特殊メイクも瞳が黒目だけだったりとか獣の顔、猫族の入った顔なんだよね。だから猫のように誘惑的で猫のように残虐。何でそんな顔なのか、女の素性はどうなっているのか、最後まで説明されませんが、それはそれでいいかも。スプラッターもきっちり入ってます。作りようによってはモンスターホラーになっちゃうが、ダリオ・アルジェントはエッチなエロチック・ホラーに仕上げてます。この辺サービス満点です。しかしフリークスの顔と精神を持ったあまりにもグラマーな女…。これは究極の選択になるのか?猫とかボリボリ食ってる段階で普通に怖いと思うんだが…。


■虫おんな 監督:ラッキー・マッキー (MAYメイ)

本なんかでもそうだけれど、アンソロジーの楽しみというのは有名な監督なり作家なりに混じって、聞いたこともない作者の作品に触れ、それがまた実に面白い作品だという事を発見する事だったりします。この『虫おんな』の監督ラッキー・マッキーは全く知らない監督で、「なんだかふざけた名前だけれど大丈夫か?」などと思って作品を観てみたら、これが大当たり。特典映像などを見るととても若いのだけれど作品には恵まれない監督のようですが、今回のアンソロジーの中でこれからの活躍がとても楽しみだな、と特に思った監督でした。それにしてもタイトルが『虫おんな』。なんだか日野日出志楳図かずおの漫画みたいなタイトルですが、原題は『Sick Girl』。しかしこのキワモノっぽいタイトルはポップな雰囲気の作風から考えてまあ許容範囲かな。作中ではロック・ミュージックもガンガン鳴らされて、若さの片鱗が伺えます。
物語はというと昆虫学者で虫が大好き、部屋でも虫を飼う女性が主人公ですが、彼女はレズビアンでもある。そしてその趣味のせいで今日もレズビアンの恋人にフラれてしまう。そんなある日、見たこともない新種の昆虫が誰かから届けられる…。といった内容。インタビューでも「これはロマンチック・コメディなんだよ」と監督が言っていましたが、確かに設定だけ生かしてホラーの要素を取っ払えば、十分コメディとして使える物語なんだよね。虫オタクでレズビアンの主人公の巻き起こすドタバタコメディ、見ようによってはそういう映画として観れるし撮る事も出来るわけです。だいたい悲劇と喜劇なんて紙一重だし、ホラーというものも笑っちゃう要素を含んでいるもの。結局一つの状況をどう受け止めるか、感情のゲージがその時左右どちらに振れるか、という問題なんだと思う。だから作品では人も死ぬし気持ちの悪い特殊メイクの化け物も現れるのに、なぜかラストはダークだけれどアッケラカンとした終わり方を迎える。そして監督が言っていたように、本当に怖いのはモンスターや血飛沫ではなく、人をその属性で差別したり、謂れの無い憎しみや感情の爆発で他人を否定したりする事なんだろうと思う。そういった様々な要素を含んでいることでホラーとしても十分楽しめる作品に仕上がったと思う。主人公の二人の女性も個性的で魅力がありました。