TAKESHIS'

TAKESHIS' [DVD]

TAKESHIS' [DVD]

売れっ子俳優の”ビートたけし”としがないエキストラの”北野武”。境遇が違うはずの二人はしかし瓜二つの顔をしていた。この二人の虚と実が混じり合い溶け合い、夢とも現実ともつかない奇怪なドラマが織り成される。
北野武の監督作品はかなり好きなほうで、デビュー作『その男、凶暴につき』から殆ど全ての北野映画を見ているはずだ。だが同一テーマを繰り返しすぎるのと『DOLLS』での稚拙な芸術趣味が鼻に付き、北野映画は半ば見限った状態だった。この『TAKESHIS'』もテーマにあまり魅力を感じず未見、そして最近レンタルDVDで観たのだが、これがなんと結構面白いではないか。


夢と現実がない交ぜになった映画表現というのは得てして監督の自己満足だったり難解なものになってしまいがちであるが、この映画では行き当たりばったりに作られているように見えてきちんと計算された構成をしている。もちろんそれぞれのシークエンスは半ば思いつきだったりするものもあるのだろうが、その連想や発想はこのテの映画にありがちな文学趣味や衒学趣味の独りよがりなとっつき難さから上手く逃れ果せていて、訳が判らないなりに観るものの感情に訴えかけるものがあるのだ。これはそこで描かれるものが嫉妬や憎悪や功名心、性欲や自己破壊願望など、ベタで判り易い感情の発露を、やはりベタで判り易いイメージで描いているからだと思う。


それらのイメージはコメディアン・ビートたけしなら爆発的なギャグとして落としてしまうものだろう。そして従来の監督・北野武なら死という名の虚無へとけたたましく暴走してゆくものだろう。しかし夢でも現実でもない、そして”武”でも”たけし”でもないこの作品世界では、それらの情動は宙ぶらりんのまま寸止めされてしまう。どっちつかずのまま緊張は何処へ逃げる術もなく、もやもやとしたまま燻るのだ。この居心地の悪さ、これこそが北野武が本作で描きたかったものであり、その目論見は成功していると思う。場面によってはD・リンチを彷彿させるシーンまで登場し、その悪夢的な映像の表現法は決して付け焼刃ではないことを窺わせる。


はっきり言って怪作であり、誰が見ても面白いと言うものではないかもしれないが、そこは腐っても北野武、いや、武は腐ってさえいないのだと思う。なぜなら凡百の日本映画さえこの作品のレベルには達していないのではないか。ただ、セルフ・パロディまで演じてしまった本作であるから、次作ではどう出るのか、楽しみでもあり不安でもある。