今日のゲンバ

オレの職場は倉庫で輸出入の荷物を扱う”ゲンバ”である。日記によく登場するフィリピン人勤労労働者諸君の仕事は海外から来たコンテナーから荷物を積み下ろす事だ。青空の下皆さん額に汗して労働に勤しんでおられるのである。
最近この作業場にラジカセが持ち込まれ、洋楽やらJ-POPやらが軽快に鳴り響く中で作業が行われている。高度経済成長の昔からゲンバに音楽は欠かせない。土木作業現場では季節労働者のトーチャンカーチャンが「よいとまけの唄」を歌いながら基礎工事なんぞをしていた。♪トーチャンのたーめなーら エーンヤコーラ、である。オレの田舎の水産加工場でもいつも演歌が流れていた。三波春夫の歌に乗って労働者の皆さんは軽快に魚の頭をちょん切ったり三枚に下ろしたりしていたのである。辛い肉体労働のさなかに精神と肉体を高揚させるために音楽は必須だったのだ。
オレのゲンバでもロックやR&Bがガンガンにかけられる中、皆さん仕事をなさっているのである。ただ、或る日の事だが、このラジオからクラシック音楽が流れてきたのである。弦楽四重奏が優雅に奏でられる中での肉体労働…。汗と埃ですっかり汚れたTシャツを着た皆さんがソナタだかノクターンだかが流れる中で黒く日に焼けた筋肉質の体を律動させているのである。あまりのミスマッチさが逆にシュールである。映画『時計仕掛けのオレンジ』のベートーベンが流れる中での暴力行為並みにシュールである。いくらクラシックが流れたって現場はお上品にならないということであろう。
そういえばこの間はガンガンの大音量でグランジロックがかかってたが、あれはとことん肉体労働現場にあってたなあ。