黒い絨毯の話、その他の話

オレの田舎での夏の風物詩といえば昆布漁。オレの育った町は昆布では日本でも有名なところなのです。この昆布、漁解禁の夏ともなれば早朝から小さなボート漁船が沿岸を大量に行き来し、ポンポンというエンジン音で夏の朝は目が覚める。オレの住んでいた家も海岸沿いにあったから、目が覚めた頃にはそんな採れた昆布が、今度は小石や砂利でいっぱいの広場に何枚も何百枚も長々と伸ばし広げられ干されているのを見ることが出来ます。これら沿岸の広場というか空き地はこの昆布を干すためにわざわざ用地されているのです。そして、干されるためにみっちりと昆布が敷き詰められた広場はあたかも黒い絨毯を敷いているかのよう。あたりは昆布の香りで濃厚な磯の匂いに満ち満ちます。昆布漁は夏休みの良いアルバイトになるんですが、体を動かすのが嫌いなオレは一回もやりませんでした…。天日に乾燥され白い塩を噴いたパリパリの昆布はお昼には収穫されます。


別の話。


昆布漁と一緒に盛んだったのはウニ漁です。これも沿岸で獲ってきては漁師小屋に集められ、沿岸漁業のおじさんおばさんが小さなスプーンを使ってカリカリクリクリとウニを割り中の卵巣を取り出して集めていきます。発色を良くする為に一度これらはミョウバン水に漬けられます。そして小さな四角い木枠に綺麗に並べられ出荷されます。この時形の崩れたものとか色の悪い物とかは商品にされずに自分のところで食べたり近所におすそ分けされます。オレの家にもそんなおすそ分けされきたウニが廻って来て、夏の間は結構いつでも食べることができました。


別の話。


なにしろ地元が漁港だったもんですから、ウニに限らずいろんな魚介類がすぐ手に入ります。叔父さんが漁船員で、漁の後に獲れた魚をオレの家に持ってきては置いていくんです。勿論タダで。カレイにスケソウダラ、車エビにタコ、イカ、ツブ貝、ケガニもありましたしキンキと呼ばれる赤い魚もありました。ホタテの養殖もやってたからこれも知り合いの叔父さんがよく持ってきてたな。遠洋漁ではなかったのでマグロやシャケような魚は手に入りませんでしたが、かなりいろいろな魚が持ってこられました。これらは食卓に上ることもあったし、親たちの酒のつまみになったりもしました。そして、オレの3時のおやつも、これら魚介類。小腹が空くような時間には母親がエビやツブ貝をよく焼いてくれたもんです。…ううん、自分で書いててしみじみ贅沢だったなあ…。そんななので魚というのはタダで手に入るもの、という頭があって、上京して一人暮らしを始めたころは魚をお金を出して買うのが莫迦らしくて、暫く食べなかった時期がありましたね。また、いつも食べさせられてましたが、あって当たり前のものなので特別魚が好きと言う訳でもないんですよね。ちなみにオレの好きな魚は青魚の類だったりします。