月曜の朝

日曜の夜は鯨が海水を呑むかの如くに酒を飲んでいたが、お陰で月曜の朝は汗ばむ日の午後に脱ぎ捨てた下着のようにぐったりとしていた。
おまけに冷房をかけたまま眠りこけ、起きてみると体は陸揚げされた冷凍マグロ並みにコチコチに冷え切っていた。
ホラー映画の動く死体みたいな胡乱な動作で起き出した俺は取り合えず熱く苦いコーヒーを淹れ、香辛料のように舌をピリピリと刺す煙草の煙を肺に流し込む。脳髄の点火プラグに電流を流す朝の儀式だ。
そして乳清の中に浮かぶ一塊のモツァレラチーズと化してまどろんでいた脳髄は、蹴り飛ばされた狩猟犬のように目を覚ます。
月曜の朝特有の憂鬱が薄汚い油虫のようにこそこそと思考の隅を這っていたが、満身の力を込めて叩き潰した。こいつらには注意が必要だ。放っておくと増殖し我が物顔で頭蓋の裏側を這い回る。そして岩礁に座する海の女怪のように甘い死の唄をさえずりまくるのだ。対処の仕方は一つ。見つけたら間髪入れず完膚無きまで殲滅すること。憂鬱を相手にする時は自分自身はあたかも老獪で狡猾な海千山千のポン引きのように振舞うこと。正直村に住むほっぺの赤いおぼこ娘みたいなヤワさだとたちまちケツの毛まで毟られちまうからな。
少しましな気分になり(そう、野戦病院から傷痍病棟に移されたぐらいには)、鏡の前に立つと、じたばたと泳ぐ海水浴客のふくらはぎを見つけたホオジロザメみたいににんまりと口を開く。ああ、凶悪だ、凶悪だ。人から剥いだツラの皮を仮面にした道化のように凶悪だ。愛と平和と公正さに首まで浸かり、怠惰なお喋りにうつつをぬかす折り目正しい一般市民に眉をひそめさせ贖罪の山羊の皮を被せられる程度には嫌な面構えだ。俺はナパーム弾のように熱くダムダム弾のようにささくれ立っている。素晴らしいじゃないか。望む所じゃないか。
空は消し炭の色をさせ、やる気が無さそうに雨をぽつぽつと降らせている。いつまでもぐずぐずめそめそと泣き言を繰り返すタチの悪い女のような空。湿気が腐った思い出のように体に纏いつく。構いはしない。愚図どもを叩き潰すのにはお誂え向きの天気だ。なぜならこれは月曜の朝だからだ。陰鬱で高慢、高飛車で姑息。毎度の定石だ。こいつのやり口はすっかり諳んじている。
いつもの茶番を演じるために外に出る。傘は差さなかった。