ブラザーズ・グリム

誰もが知っているグリム童話を題材に、そのグリム兄弟自体を主人公に据えて作られたダーク・ファンタジー。最初はT・ギリアムが童話を題材にした映画を撮るなんて”らしくない”なあ、とあまり興味を覚えず、劇場へは足を運ばなかったんですが、DVDで観たらどうしてどうして、味は薄めながらギリアムらしい作風に仕上がってました。というか、ただでさえ濃い目のギリアム、このぐらい薄まったほうが一般受けは良かったんじゃないのかな。ヒットしたんですかねこの映画。


結局、メルヘンを題材にしたところからティム・バートンあたりと安易に比較対照されたところがちょっと損だったのかもしれません。オレもそんなふうに受け取ってたし。ただ、バートン映画とギリアムのものとでは映画の主題とするものがやはり歴然と違うのではないでしょうか。


ギリアムの撮る映画というのはずばり”憑依する妄想・ホラ話”が主題なんだと思います。
バンデットQ』や『バロン』はもろホラ話だし、『未来世紀ブラジル』は国家自体が壮大な妄想の体系であるということだし、『フィッシャーキング』はDJという大言壮語=ホラ話を操る男が聖杯という妄想を探す話です。『12モンキーズ』は精神衰弱の男の妄想が”12モンキーズ”という組織を作りますが実は”12モンキーズ”自体がホラ話であったという結末を迎えます。
ラスベガスをやっつけろ』はクスリでラリッた男達が世界を妄想じみたものにしてしまう物語で、製作中止になった『ドン・キホーテを殺した男』はドン・キホーテという妄想に憑りつかれた男が主人公の古典的作品が元であり、その製作経緯を綴った『ロスト・イン・ラ・マンチャ』はギリアム自身が映画作りという妄想に取り付かれた男で、この『ブラザーズ・グリム』は御伽噺という妄想を作り上げる兄弟がその妄想に逆襲されるという物語である、と言う訳です。
そしてギリアムの描く妄想はどれもファナティックです。偏執狂的といってもいいかもしれません。ギリアムのキャリアの元になった『モンティパイソン』も恐ろしくファナティックな狂気で彩られたナンセンスな世界でした。


こういったふうに観ると、この『ブラザーズ・グリム』もギリアムらしい映画の流れにある1作品と取れるのではないでしょうか。あとグリム童話の断片をここかしこに、これでもかとばかりにちりばめた脚本は実によく出来ていたと思う。映像的には小汚らしい中世の町並みや鬱陶しいぐらい鬱蒼としている森の描写が好きでした。こういった汚れた絵って得意ですね、ギリアムは。